成毛眞の「これって暴論?」第5回


日本を・江戸時代化・する兵器 

朝鮮半島をめぐる緊張が日増しに高まってきている。朝鮮戦争は1950年6月に北朝鮮軍が北緯38度線を越えて開戦、戦線は一進一退し53年7月に休戦協定が結ばれた。この3年間の戦争による犠牲者は中国軍兵士100万人を含め、兵士と市民を合わせ400万人から500万人に上ると推定されている。

その休戦協定を白紙に戻すと北朝鮮が3月11日に宣言したのだ。3月6日付の朝鮮労働党の機関紙は、最高司令部の声明として「われわれは多様化した精密な核攻撃手段で、ソウルだけでなくワシントンまで火の海にする。準備は整っており、金正恩第一書記の命令だけを待っている」という記事を掲載した。3月8日の朝鮮中央通信は「米国とその追従勢力の本拠地を跡形もなくする万端の準備が完了した」とする論評を伝えている。

この北朝鮮が考える「追従勢力」に日本が入っていてもおかしくはない。万が一にも北朝鮮が東京に向けて「精密な核攻撃」ができるミサイルを発射した場合、7〜8分で東京上空に達する。自衛隊と米軍はミサイル防衛に自信を持っているとされているが、はたしてその弾頭がEMP爆弾だったら迎撃は可能なのだろうか。

米国のテレビ局ABCや朝鮮日報は、北朝鮮がEMP爆弾の開発に成功したのではないかと伝えている。このEMP爆弾は目標の数百・上空、空気のない熱圏で作動する最先端核兵器だ。高度50km以下の成層圏に到達した大量のガンマ線は空気分子に衝突し、コンプトン効果により大量の電子を叩きだす。この電子が地上に降り注いで、電線にサージ電流を発生させ、電子装置やネットワークを破壊するというものだ。影響は半径500kmに及ぶ可能性がある。

この爆弾には直接生物を殺生する能力はないが、防衛システムだけでなく、民間のコンピュータも通信システムも破壊されるため、金融も物流も交通も完全にストップしてしまうことになる。攻撃を受けた側は数年間にわたって、反撃どころか100年以上前の社会に引き戻されてしまうのである。

北朝鮮が日本を攻撃する場合、東京から大阪の間の適当なところに向けてミサイルを発射し、高度100km以上の上空で爆発させるということになるだろう。この弾頭を付けたミサイルに精密誘導技術など不要なのだ。つまり、最悪の場合、一発の貧者のミサイルとEMP爆弾で日本の社会システムは江戸時代にまで引き戻されることになる。日本経済の破綻は世界経済破綻の引き金にもなるだろう。

ともあれ、このミサイルを防ぐためには発射から1〜2分以内の上昇期に破壊する必要がある。ミサイルが目標高度の数百kmに達した場合、それを確実に破壊する迎撃兵器は存在しない。日本人は太平洋戦争から、相手を見くびってはいけないということを学んだ。そして、東日本大震災からは、完全に想定外のことも起こりうるということも学んだはずだ。

万が一にも北朝鮮によるEMP爆弾搭載のミサイル発射がありうるなら、対策を立てておかねば――そんな心配は杞憂にすぎないのだろうか。
クーリエ・ジャポン 6月号掲載)