壽初春大歌舞伎・夜の部 2012年


多少損した感のある「昼の部」を見てから1週間後の「夜の部」だ。なんとか元を取らなければならない。まずは三津五郎の「矢の根」である。年末に京都南座で「お江戸みやげ」のお辻を見たし、そもそもここ半年の三津五郎は世話物から舞踊まで大活躍なのだ。そこへいきなり荒事で現れても困るというものだ。荒事の主役は突拍子もないからこそ面白いわけで、しばし等身大の人物を演じ続けた俳優では違和感がある。ところで曽我十郎役の田之助が一瞬、富十郎に見えて困ってしまった。

次の「連獅子」はその富十郎の遺児である鷹之資と吉右衛門の舞踊である。富十郎1周忌狂言だ。しかし、たった半年前に仁左衛門と千之助の連獅子を見たあとだ。フィギュアスケートでもあるまいし、順位を付ける必要はないのだけれど、若干の見劣りは否めない。つまり鷹之資・吉右衛門組は矢鱈に頑張ってる感があるのだ。いっぽうの千之助・仁左衛門組はじつに自然体だった。それにしても、ここ2年ほど石橋ものが多すぎではなかろうか。連獅子だけでも2010年-2011年の2年間だけで7公演。それまではせいぜい1年2公演くらいのものだった。

最後は「め組の喧嘩」だ。大詰の大乱闘こそが眼目だ。60人を超える俳優が演じる殺陣がほんとに良く出来ていて、楽しいったらありゃしない。さすがは菊五郎劇団だ。菊五郎時蔵左團次團蔵梅玉菊之助も、誰もかれもいつものごとく鯔背でカッコ良いのだが、今回褒めたいのは藤間大河君である。

菊五郎時蔵が演じる夫婦喧嘩の間、延々と武者人形、獅子頭や火消し道具などのおもちゃなどで遊ぶという演技をし続ける必要がある。そして、ここぞというところで纏のおもちゃで遊んでいなければならない。もちろん台詞も良かった。しかも、この狂言は子役だからといって拍手をもらえる場面がない。こんな役柄を子供のときから1か月間も演じるということを何十年も続けて歌舞伎役者という稀なる存在が形作られるのであろう。

すくなくとも夜の部はチケット代の元を取ったという感じだ。しかしこれから見るひとは「め組の喧嘩」だけの一幕見でも良いかもしれない。今月はそれよりも中村座が気にかかる。もちろん七之助の絶好調が伝えられているからなのだが、獅童、梅枝、萬太郎の萬屋一門の好演も聞こえてきた。