国立劇場新春歌舞伎公演「旭輝黄金鯱」初日



年末から楽しみにしていた大歌舞伎だ。今年のお正月のメインイベントだ。いやはや面白いのなんの、楽しいのなんの。観客全員、帰り道はニッコニコだ。舞台上の菊五郎劇団だけでなく、今日は大向うをはじめ、多くの贔屓客がいるからこそ、さらに楽しめたような気がする、申し分のない歌舞伎世界を堪能した。

初演は天明2年(1782年)だが、最後に演じられたのは明治37年(1904年)の復活狂言である。120年間演じられて、なぜか明治末期にすたれ、そして100年ぶりの上演されたということになる。ストーリーは荒唐無稽だが、ゾンビなどは出てこない。

序幕は狂言の背景説明だからいささかスローな展開で、昼飯前のお腹減らしの場というところだ。2幕目はいよいよ菊五郎の凧の宙乗りである。国立劇場だからこその大道具の演出が楽しめる。菊五郎が怪我でもしないかとハラハラするばかりだ。

お昼をはさんで3幕目でストーリーはどんどん歌舞伎的無理筋へと進んでいく。そしてこの狂言の目玉である大詰だ。

御師大黒戎太夫内の場」は菊五郎劇団お得意の上品な「大笑い」だ。菊之助の万斉と右近のおみつが語りあう後ろで、菊五郎の金太夫が嫉妬する。その菊五郎の様子があまりに可笑しいのだが、二人の台詞中だから観客は笑いを必死にこらえてる、それを見て菊之助がまた笑いを必死にかみ殺している。下ネタで爆笑だけすれば良いという芝居とは全くことなる楽しみがある。金鯱観世音菩薩の仕掛けについては、さすがに初日感想としてはネタばれなのでやめておく。大笑いできることは請け合いだ。

木曽川の場」は菊之助の本水を使った場だ。じつは温水では逆に風邪をひきやすいらしい。6列目でもひやっとする。前から3列目までの観客には透明シートが配られている。水が客席まで飛んでくるのだ。それにしても菊之助がキレイである。

そして「鳴海潟の場」は13人勢揃いだ。手ぬぐい捲きのあと双方引っ張りの見得でしめる。月並みな表現だが絵を見ているようで、みんなかっこ良くて、うるうるしてしまう。今年も1年通して歌舞伎に出かけようと決心を固めてしまう。下手に菊之助だから、定式幕が引かれる最後まで見ることができるという憎い配列だった。

時蔵菊五郎の母である村路と園生の二役。まわりでは老け役で出てきたときにはため息が、そして園生で出てきたときには「やっぱりこれよねぇ」というささやき声が。そのとおりの美貌の家系だから、梅枝はとんでもなく美しくなりつつある。弟の万太郎も台詞がどんどん良くなって凛々しくなってきた。

松緑も素晴らしい。どこか力が抜けていて、人柄がにじみ出ているのだ。右近はキレイだ。團蔵もすてきだ。松也もかっこよい。亀蔵もしっかり。田之助と彦三郎がしめている。勝手な思い込みかもしれないが、俳優たちも観客と一緒に楽しんでいるふしがある。もうあと一回はどうしても見たい舞台だ。いやぁー、楽しかった。