魚眼レンズで歩くフィレンツェ

使用しているレンズはキャノンのEF15mmF2.8フィッシュアイだ。カメラはEOS5DMarkIIである。魚眼レンズは画角が180度もあるため、写し取られた画像は樽型に歪む。しかし、この画像こそが人間が記憶している画像そのものだと思う。つまり、人間は目や首を左右に振ってあたりを眺め、それを大脳で合成したうえで、その場面全体を記憶するからだ。普通のレンズはその一部を写したものでしたかない。それゆえに、気楽な旅のスナップには魚眼レンズが好きなのだ。まずはフィレンツェで見た車をいくつか紹介してみよう。


クリーニング屋さんの軽トラックだ。イタリアの街では軽トラックが軽快に走り回っている。1人乗りの車も多い。小粋でカッコ良い。


清掃車だ。やはり細い道にあわせた小さな清掃車がきびきび走りまわっている。少量の水を撒きながら、犬の糞などをかき集める。


ゴミ回収車だ。車体に描いている絵は分別されたゴミの種類別のイラストなのだがアートになっている。作業者の制服はゴミ収集車に限らず、いわゆる道で作業する全ての人がオレンジの制服を着ている。

というわけで、魚眼レンズを使えば、対象となる車だけでなく街の雰囲気も伝えれると思うのだ。ところで魚眼レンズは180度写るのだから、ファインダーをきっちりと覗く必要はない。テキトーに狙いを定めて腰の位置にカメラを構えてシャッターを押せばよい。つまり、被写体に写真を撮られていることを意識させないので、気楽にスナップができる。これは失敗写真をすぐ消せるデジタルカメラとの組み合わせで劇的に効果がある。


レストランテ「Ciro&Sons」のワイン庫の写真だ。可愛いこの店の5代目世代の二人目Gennaroが写っている。もしフィレンツェに行くことがあれば、このお店は本当にお勧めだ。美味しいだけでなく、大家族で経営している典型的な暖かいイタリアのお店なのだが、観光客でも入りやすいのが嬉しいはずだ。内装も「モダンでクラシック」。ただし、3人の5代目がお店の中を走り回っていても気にしないように。
http://ciroandsons.com/


駅前の乾物屋さんだ。じろじろ見るように写真を撮るのは恐縮だったので、相変わらず腰位置で店頭を撮った。このあと店内に入ってからバルサミコなど60ユーロ分乾物を買ってしまった。店主は超親切で可愛いおばちゃん。余ったダンボールを使っての手作り梱包までしてくれるはずだ。
Cherubino, Via Sant'Anjonino 4/R Firenze

魚眼レンズは画像が歪むという効果そのものも面白い。歪ませるためには寄る必要がある。ショーウインドーの中を撮るためには、ウインドーにレンズを密着させる必要がある。逆にいうとショーウインドーで反射する太陽や照明を写しこまないのだ。


マスクを売っているお店だ。この時は店はまだ開いていなかった。これは右側、左側には赤のマスクがあった。入りたかったが時間切れだった。


若い男性向けのブティックのディスプレーだ。バクリなのだと思うのだが、小さな地元の店なのにうまい。


迷い犬探しのポスターである。それにしてもこの犬の写真がじつに悲しそうだ。駅前にいっぱい張ってあった。

多くのカメラには望遠レンズのみが付いている。より対象物を近づけて見たいという気持ちは良くわかる。しかし、その場の雰囲気、つまり自分がどんな気持ちでその場に立っていたのかについて、できあがった写真は説明してくれない。あくまでも自分が何を見ていたかを、さらに良く見るための写真にしかならない。

魚眼レンズはけっして写真家のものではないと思う。むしろ、旅行などで雰囲気もなにもかにも一発で撮って、あとでそれに浸るための最強のツールなのだと思う。魚眼レンズつきのコンパクトデジカメが出てきたらから、買いであろう。