Jan Huydts Trio / Trio Conception

トリオ・コンセプション

トリオ・コンセプション

私がJAZZレコードを集め始めた頃のよりどころは、ジャズ評論家によって書かれた解説本や名盤ガイドしかなかった。周りにJAZZ好きの知人友人がいた訳ではない(いたとしても、教えてやる的な講釈を聞かされるのはごめんだった)し。マイルス・デイビスとかビル・エヴァンスの「名前」位しか知らなかったので、中古レコード屋に行っても、見たことも聴いたこともないレコードだらけだし。 デートで行く店のBGMこそがJAZZだった。

彼女とよく行っていた吉祥寺の「アウトバック」は、JAZZをBGMで流しているバーだと思っていた位だ。ジャズ喫茶という形態が存在することさえ知らなかったし、ジャズ喫茶自体既に下火だった。寺島靖国氏の「辛口!JAZZノート」を読んで、氏がオーナーの「MEG」を探し当てて行ったことがある。 JAZZを聴き始めたばかりの私には全てが合わなかった。近鉄裏の外れ、妖しい雑居ビルの2Fというロケーション、薄暗い店内、穴だらけのビニールカバーの直角椅子、不味くて高いコーヒー、パチンコ屋店内の騒音よりでかいボリューム・・・(当時の私の印象なので悪しからず)。ここは私のようなひよっこが足を踏み入れてはいけない世界なんだと思い、早々に退散した。

JAZZの歴史とか理論のお勉強なんてまっぴらごめんで、どーでもよかったし、単に自前のオーディオで気持ちよく聴ける(眠れる)JAZZを、レコードで聴きたいだけだった。ジャズ喫茶での実践には不向き(まねからざる客)だと思ったので、解説本や名盤ガイドを教科書代わりに、えらい勢いでJAZZレコードを集めていった。ディスクユニオンレコファンは毎日。歌謡曲や演歌、ロックがメインの街の中古レコード屋はローテーションを組んで週末にまとめて回った。国内外問わず、出張先では必ず地元のレコード屋さんを探した。地方では東京であまり見かけない盤を入手することができたのだ。今でも当時のことはよく覚えているので、この頃の話のネタは尽きない。会議で5日滞在したバルセロナレコード屋には続けて3日通い、3日目の夜にその店のおねえさんにフラメンコの店に連れて行ってもらったりとか。

買う(買える)のは、国内盤やOJC、フレッシュサウンドの再発盤ばかり。まだオリジナル盤の価値など知らなかったから、ジャズ廃盤専門店なんて敷居が高すぎてとてもとても。なぜウン万円もするレコードがあるのか理解していなかったし、ジャズ喫茶同様の素人を寄せ付けないような雰囲気が苦手だった。いつかレコードがなくなってしまう日が来ると本気で思っていたから、中古店を買い占めてしまいたいとまで思ったりしたこともあった。目当ての盤を入手しては、ガイド本にチェックマークを入れて悦に入る日々。そのうち、レコード屋回りをしている時間はあっても、レコードを聴く時間がないという事態に陥り始めた。聴く目的ではなく、入手が目的となってしまう。入手したまま聴かないレコードが増え始め、入手したレコードもカセットに落としてウォークマンの惨い音で聞くという、本末転倒、初心を忘れた廉価盤コレクターになりつつあった。

こういうファンキーな道をたどらずともJAZZの通になれるよう、ガイド本にはあまり載っていないようなレコードを紹介していきたいと思っている。今回は、 Philipsからリリースされた「Jan Huydts Trio / Trio Conception」を紹介しよう。私がヨーロッパジャズに入り込むきっかけとなったレコードの一つ。リーダーがピアノのJan Huydts、ベースがPeter Trunk、ドラムスがJoe Nayのトリオで、1963年ベルリンでのライブ録音。A面1曲目の「枯葉」は、私が一番好きな「枯葉」である。BGMの定番の曲だが、決してBGMにはなり得ない。上品でスリリングでカッコいいピアノトリオの昇華。

(JHS-JAZZ 山田)