『死体の経済学』

死体の経済学 (小学館101新書 17)

死体の経済学 (小学館101新書 17)

タイトルがどこかしっくりこないのだが、これ以外の題名はつけようのない本だ。内容は葬儀だけの話ではない。防腐処理だけでも、腐乱死体の処理の話だけでもない。死体にまつわるビジネスの総合的なノンフィクションなのだが、最後まで読むと金儲けだけだと割り切るには抵抗が生まれる。ゆえに経済学と名付けたのであろう。

第1章は葬儀ビジネスのからくりについてで、この章だけを立ち読みでもしたら買えない本だ。葬儀会社が遺族の当然の無知につけこんで、暴利をむさぼる構図の紹介で、まあそうだろうなで終わりになりかねない。次の章から断然面白くなる。

第2章ではエンバーミングというはじめて聞いた技術についての紹介だ。ドライアイスに代わる防腐処理技術のことだ。1体の処理に10−20万円かかるという。専門の機械を使い血液を抜き、防腐剤を注入するのだという。古くからある技術だそうで、土葬が中心のアメリカで発達したとのことだ。

第3章は日本で生まれたスプレー式の防腐処理剤だ。なんと3000円でエンバーミングと同様の効果があり、全国の警察や自治体から発注が殺到しているらしいのだ。このスプレー式の薬剤の開発過程がじつにおもしろい。そこでは偶然と努力が新しいビジネスを育んでいる。良質のベンチャービジネスケーススタディを読んでいるようだ。

この章以降、第6章までは書評でもかなり伝えにくい部分である。すなわち納棺、死化粧、腐乱死体処理、遺品整理、死臭の消臭などについてであり、食事前後に読まないほうが良いかもしれない。著者自身が現場に踏み込んでのレポートなので充分読み応えがある。

最後は棺桶ビジネスと火葬場建設についてである。案の定、ここにも中国の廉価不良品が登場していることに苦笑してしまう。それにしてもエコには良いダンボールの棺桶があるというのだが、選んだ喪主は親戚から白い目で見られないのだろうか。

本書はさくさく読める割には、インフォーマティブだ。著者はこの取材に5年もかけているというのが良くわかる。全てを理解してそのエッセンスを書いているのだから、読みやすく内容にも満足できるといものだ。ヨーロッパからの帰りの飛行機のなかで2時間くらいで読んでしまった。おかげで結果的に読むものがなくなってしまい、熟睡できた帰り路だった。