『日本は原子爆弾をつくれるか』
- 作者: 山田克哉
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2009/01/16
- メディア: 新書
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本書はじつに丁寧に書かれており、原子の構造や放射能とはなにか、という中学生レベルの基礎的なことから始まる。しかし、すぐに広島型と長崎型の構造の違いについての説明になり、さらに長崎型に使われたプルトニウムを核分裂連鎖反応させるためには「爆縮」する必要あり、そのためには「爆縮レンズ」が必須で、爆縮レンズ用の爆薬にはトリニトロトルエン33%と硝酸バリウム67%の混合物であるパラトールとRDX爆薬が決め手になるのだ、という運びになる。ここまででわずか60ページだ。大いに楽しめる予感がするというものだ。
遠心分離型のウラン235の濃縮装置は超高速回転だけでなくガスの対流現象も原理として使っているとか、同じく濃縮方法としてのレーザー原子法とレーザー分子法の違いとか、まあマニアであれば知りたかったことがじつに良くまとめて説明される。
ボクがまったく知らなかったことも書いてある。プルトニウム240の自発核分裂という現象だ。この現象があるため、軽水炉型の原子炉で結果的に生成されてしまったプルトニウムは爆弾用に適していないのだという。そのメカニズムは本書に詳しいので省くが、プルトニウム240が混じると「未熟爆発」という現象が起こってしまうからだという。つまり、日本にあるプルトニウムでは本格的な原爆は作れないということだ。
本書はあくまでも原爆の技術を理解するための書籍である。政治的に原爆を取り扱う本ではない。しかし、原爆の技術を我々が理解しなければ、日本には長崎型原爆5000発分のプルトニウムがあるということを信じて、バカな政治家が安全保障政策をいじくりまわしたり、他国を挑発したりしかねない。またウラン濃縮工場や高速増殖炉などについての、タレント評論家の思いつきコメントに振り回されるのもいやだ。ともあれこの情報量で740円は安い。