『警視庁捜査一課長 特捜本部事件簿』
- 作者: 田宮榮一
- 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
- 発売日: 2009/01/27
- メディア: 単行本
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昭和57年から58年にかけての話だから、全編を通じて演歌の匂いがする。しかしそのおかげで意外とは言って失礼だが面白い本に仕上がっている。帯には「実録犯罪捜査ファイル」とい宣伝文句が書いてあるが、実際は「昭和人情捜査官物語」という感じなのだ。
犯人を検挙した報告でお線香をあげに、捜査員がひと間だけの質素な被害者宅に行った。未亡人となった被害者の奥さんが、半分飲んだ日本酒の一升瓶とビールを2本を差し出して「これしかないのですが、あの人からのお礼です」と言ったのだそうだ。その捜査員の報告を聞いて捜査本部は水を打ったような静寂が流れたという。ドラマでこれをやってはウソくさくなるが、本当の話なのだ。
犯人が死体を海に捨てたため、被害者の死体が見つからないまま裁判に臨まなければならない事件があった。犯人は一旦は自供したのだが、裁判では否認する可能性もでてきた。そこで田宮捜査一課長が取った奇手というのが秀逸なのだ。さすがにネタバレすぎるので書かないが、人の心を読みながら、冷静に戦略を練る。
ほかにも神楽坂の寿司屋で捜査のヒントを聞く話、笹塚十号通り商店街の居酒屋の話、新宿2丁目の情景など、登場する場所もじつに演歌が似合うところばかりだ。あえて本書に星を付けるとすれば★☆☆だ。なんせ話が古いのだ。