花形歌舞伎 夜の部
もちろん目玉は菊之助の政岡である。海老蔵の仁木弾正も松緑の細川勝元もこの演目では二の次だった。ロビーではお母上の富司純子さんをお見かけした。
菊之助の政岡は戦後最年少の初演だという。今回は玉三郎に稽古を見てもらったらしい。その玉三郎は歌右衛門から学んだ。政岡が登場するのは「竹の間の場」、あまりに美しく若い政岡なので本当に大丈夫なのかと心配になる。杞憂だった。あきらかに自分がしっかり演じなければこの芝居そのものが成立しないのだということを自覚している堂々とした舞台だった。とてもまだ31歳とは信じがたい。八汐の愛之助もいやらしく、菊之助を引き立てていた。
菊之助ですっかり切符代を回収したつもりになり、どれどれと見た「床下」の海老蔵がとんでもなかった。狂気や妖気という言葉では足りない。蝋燭の光の中にこの世ならぬものがいる。「刃傷」になってとんでもなさに拍車がかかる。この異様さは映像ではけっして表現できないであろう。手負いの老人である男女蔵の体のキレが良すぎる感じがした。殺陣はほどほどで、海老蔵だけを見ていたいからだ。
ところで「対決」では海老蔵と松緑がかみ合っていない。というより二つの芝居を同時に見ている感があった。松緑はリズム感が本当に良い。台詞にあわせて膝が拍子をとってしまう。山名宗全の家橘が主役を引き立てすぎだ。あの台詞の平板さは意図的なものなのだろうが、舞台は最後まで間延びした感じになってしまう。
ともあれ今月の新橋演舞場は「刃傷」までで帰るべきかもしれない。この舞踊は通し狂言にのめり込んだあとでは違和感がありすぎる。