芸術祭十月大歌舞伎・昼の部
じつは菊五郎は2003年に61才で人間国宝になっている。他には富十郎、藤十郎、芝翫、雀右衛門、又五郎、田之助の6人だけだから、菊五郎がいかに若くして人間国宝になったか驚く。その菊五郎の魚屋宗五郎は地のままかと思ってしまうほどこなれている。きっと江戸っ子の酒飲みってこんな感じだったんだろう。てやんでい、べらぼうめ。
この芝居が書かれた同時代の『米欧回覧実記』のなかで、著者の久米は欧米の路上には酔っ払いがいないことに驚いている。幕末の江戸には酔っ払いがごろごろしていたのだ。天秤棒担ぎの魚屋であっても酒には不自由をしなかったのであろう。
「魚屋宗五郎」は細かい演出が楽しい。茶屋のおかみの帰りがけ、玄関まで見送ろうとする女房を、不祝儀だからその場でと小声で止める宗五郎。このちょっとした演出で宗五郎が常識人であることがわかる・・・という常識をこの芝居で知った。菊乃助のおなぎが楚々としてきれい。女房おはまの玉三郎はちと勿体ない感じ。
本日二人目の人間国宝、芝翫の「藤娘」があいらしい。傘寿の踊りである。ちなみに芝翫は日本俳優協会会長だが、過去にこの会長職には5代目と6代目の歌右衛門が就任している。こんな役職も世襲なのであろうか。とはいえ歌舞伎は世襲制だからこそ芸も磨かれ、味わい深く、下世話な興味もそそられる。
本日の席は一階6−25。花道をあまり使わない演目なのでこのシートがとても良かった