『ダイヤモンドは超音速で地底を移動する』

本書のタイトルどおり、ダイヤモンドは地底を超高速で移動し、地上に噴出してきたのだという。ダイヤモンドを含んだマグマが、地下400kmのマントル層で生成され、6時間あまりで地上に到着するというのだ。最深部では時速60kmほどでマグマは上昇を開始するのだが、地下50kmあたりからスピードを上げはじめ、地下2kmでは時速1000km、つまり音速の8割に達する。さらに地上に近づくとマグマとガスは時速2000kmにも達することがあるという。ダイヤモンドはなんとマッハ1.8のスピードで地上に現れるのである。想像するだけでじつに愉快である。ドッカーン!バラバラバラバラ!とダイヤモンドが降ってくるのだ。

この破局的な噴火は過去に何回も起こっているのだが、直近でも数億年前。次は2億年以降になると予想されているから、われわれはこのタイプの天災に備えている必要はなさそうだ。プレートテクトニクス理論によれば、大陸は移動し、離合集散を繰り返す。パンゲアと呼ばれる超大陸が分割して、現在の5大陸の配置になり、また2億年後には一つの超大陸になる。すでにその大陸の名前は決まっていて「アメイジア」と呼ばれている。ダイヤモンドを含むマグマ噴火はこの超大陸が形成されないと起こらない。ダイヤモンドは数億年に1回しか地表に現れないのだから、希少性が高いのは当然なのかもしれない。

本書はダイヤをモチーフとし、地球科学や超高圧研究の現在について、まったくの初心者にも判りやすく、ある程度知識のある人にも読み応えのある入門書に仕上がっている。ほかにも、オーストラリアの研究チームが発見したある中性子星には連星(兄弟星)があり、その巨大な連星はダイヤモンドでできている可能性が高いこと。(連星なのだから、地球などの惑星レベルの大きさではなく、恒星レベルの大きさのダイヤモンドということになる)また、地球のマントル上部はかんらん岩でできており、その組成はかんらん石(宝石名ペリドット)、翡翠ざくろ石(宝石名ガーネット)という宝石のかたまりのような状態になっていること。天然ダイヤモンドよりも硬い人工的に作られたヒメダイヤはミカン色であることなど、興味深いサイエンストリビアが綴られる。

ちなみにこのナノ多結晶ダイヤモンド=ヒメダイヤの発見者にして命名者こそが本書の著者だ。ヒメダイヤのヒメとは著者が教鞭をとっている愛媛大学のエヒメから名付けられたものだ。著者の将来の夢は「ヒメダイアを使って、実験室内に地球内部のマントル全域を精密に再現すること」や「ヒメダイヤを超える硬さの新物質を生み出すこと」など、研究対象は小さな宝石であっても、科学的には壮大な事業だ。ロマンだ!

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