松竹大歌舞伎 平成22年中央コース@王子「北とぴあ」
非常に苦痛を伴う観劇だった。歌舞伎のことではない。会場となった「北とぴあ・さくらホール」の椅子がひどかったのである。3時間の公演だったのだが、膝もお尻も背中も悲鳴を上げた。座面までの高さを実測してみたら33センチしかなかった。身長178のボクの膝は常時60度くらいに折りたたまなければならなくなった。しかも、椅子はヘタっていて前に傾斜しているし、座面の前後幅も短い。通路を挟んだ席には小学生が座っていて、まさにぴったりのサイズである。歌舞伎座の椅子が懐かしくて涙が出そうになった。
女性用トイレには客席内まで続く待ち行列ができている。3階からは不思議なタイミングでパラパラと声がかかる。隣席のご婦人は大量のニンニクを食してきたらしい。役者は1か月の全国巡業で疲れきっているようだし、昨日の海老蔵披露宴でさらに疲れが倍加しているのかもしれない。
その中で「廓三番叟」から公演が始まった。梅枝オンステージであった。もちろん、時蔵あって舞台であろうし、萬太郎もしっかりしている。しかし、梅枝がじつに楽しそうに、じつに美しく優雅に踊っていて、あきらかに主役である。どこかふっきれたような踊りであった。恐るべし梨園。恐るべし伝統文化。あらゆる年代にきっちりと後継者を育てている。
「一條大蔵譚」は正直なところ、みんなお疲れのご様子。こんな炎天下のなかで一座は、7月1日から都内、東北、静岡、関西、四国、中国、中部と廻ってきたのだ。明日の厚木で千秋楽。本当にお疲れさまでした。一座はもちろん裏方も含めて、肉体的にも敬服に値する仕事をしているのだ。椅子のことで文句を言っている自分が恥ずかしい。
今日の「棒しばり」の次郎冠者は菊之助。驚異である。一部の隙もなく踊っているにもかかわらず、客を爆笑させる。とはいえ、けっして松緑が引き立て役ということではない。松緑は松緑でとっくに素晴らしいのだ。まちがいなく菊之助は日本の宝だ。