『小説家という職業』

小説家という職業 (集英社新書)

小説家という職業 (集英社新書)

自由をつくる 自在に生きる (集英社新書)

自由をつくる 自在に生きる (集英社新書)

創るセンス 工作の思考 (集英社新書)

創るセンス 工作の思考 (集英社新書)

森博嗣のシリーズ・エッセイである。前々作は『自由をつくる 自在に生きる』、前作は『創るセンス 工作の思考』だ。
http://d.hatena.ne.jp/founder/20100312/1268382995
この3連作はそれぞれ「自由論」「工作論」「小説論」と著者が呼んでいたものを、出版社が売れそうなタイトルに変更して出版したものだという。

これから小説家になりたい人にとっては真の必読書かもしれない。「激変する出版環境のもとで」「創作というビジネスを」「職業として続けるための」心構えとノウハウの一切合財が書かれている。今日にいたるまで、それらについてきちんと書かれた本はなかったであろう。

著者は「こうすれば面白い小説が書ける」とか「こうすれば美文になる」などは些末だという。それどころか著者は「もしあなたが小説家になりたかったら、小説など読むな。」と本書の1行目で言い切るのだ。もし、ビジネスに例えることが許されるなら、100%そのとおりだと思う。

15年ほど前のこと、ビル・ゲイツ日本経済新聞社主催の「起業家セミナー」で講演したことがある。参加者は2000人ほどであった。もう1人の講演者であるリチャード・ブランソンと控室で談笑中、2人の意見が完全に一致して爆笑していた。「こんな講演を聞いていて立派な起業家になれるわけなどない。成功したければ、呑気に講演なんか聞かないで、ともかく仕事するべきだよね」と。

本書にもどろう。著者は「小説を書いて、それを職業にする」という決意があれば、ノウハウなどほとんど無用だと言い切る。「自分は楽しく小説を書き続けたい」と思う人は同人誌でも作って「職業としての創作」には関わるべきではないともいう。

ビジネスにおいても、まったくその通りだと思う。30才になっても40才になっても、自己啓発本やビジネス・ノウハウ本を「楽しみながら」読んでいるビジネスマンを見るにつけ、つくづくアマチュアだと思う。自分はもうプロだと勘違いしているように見える新卒に勝てる見こみはない。

ここまででまだ「まえがき」を紹介しただけである。本文では職業としての作家を続けるための顧客分析法や流通業としての出版社、生産者としての作家などについて章を立てて説いていく。本文で印象に残った言葉のひとつは「マイナを狙え」だ。「ニッチ」と言い換えて良いだろう。「天の邪鬼」と言い換えても良いはずだ。どの職業でも成功の秘訣は似ているのかもしれない。