『グーグル秘録』 週刊現代7月3日号 「日本一の書評」欄掲載

グーグル秘録

グーグル秘録

寄稿させていただいているから言うのではないが「週刊現代」の書評欄が充実している。今週号のブックレビューは3本。『グーグル秘録』ケン・オーレッタ、『お父さんとオジさん』伊集院静、『鈴蘭』東直己。著者インタビューは『母』の姜尚中。「わが人生最高の10冊」は三浦雄一郎。リレー読書日記は野村進だ。野村進は『グーグル秘録』『アップル、グーグル、マイクロソフト』『クラウド時代と〈クール革命〉』『電子書籍の衝撃』を紹介している。

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まさにデジャヴでもみているかような物語だ。グーグルもいつかは陳腐な大企業になり、それにつれて被害者であるメディア業界や広告業界も気を取り直して反撃に転じ、創業期のメンバーが退職し、やがて若い会社と新しいビジネスモデルの出現に呆然と佇むであろうことを確信した。それはまさにマイクロソフトが辿った道なのだ。

第3章は初期のグーグルを語っているパートだ。「オタクのディズニーランド」、「漠然とした事業計画」、「遊び心はあるが社交嫌い」、「経営的には苦境」、「求められたプロの経営者」。

細部にわたるまでマイクロソフトの初期と重なる。創業者の平均からの逸脱度や方向もほぼ同じだ。それ以降現在に至るまで、エンドユーザーからの直接収入と広告による間接収入というビジネスモデルが違うものの、独占体質や組織が抱えている病理はマイクロソフトとほとんど違いはないようだ。

これからのグーグルを予想する最終章では「聞く耳を持たぬグーグル」、「経営の焦点がボケはじめている?」などの見出しが並ぶ。マイクロソフトにくらべ、グーグルは成長も早かったが、老化も早いのかもしれない。

本書の結びでは「蓄積した2.4京バイトのデータ、電子化する予定の2千万冊以上の本」を引き合いに出して、その物量に驚いてみせる。しかし、いまから20年後にこの程度の数字で驚く人がいるとはとても思われない。それらは未来での平凡な数値に他ならない。

ともあれ、マイクロソフトもグーグルもアメリカでしか生まれようのない企業である。日本で生まれないことを嘆く必要はない。ヨーロッパでもアジアでも、この2社のような会社は生まれようがない。本書はその謎を解き明かす糸口になるかもしれない。

第1に創業者の激烈な性格である。高知能にして傲慢、激烈な功名心と徹底的な猜疑心、その度合いはアメリカ以外の先進国では正常とみなされないかもしれない。しかも、彼らは世間から攻撃されやすい自分たちを隠すために、CEOを雇い入れる悪知恵も持ち合わせている。

第2にその創業者の可能性に群がる無数の技術系社員候補とベンチャーキャピタルの存在だ。両者ともリスクをとることを恐れない。ごく初期に人・物・金を一気に集めることができるのはアメリカだけであろう。

第3に英語圏のもつ経済力だ。グーグルが日本語やフランス語から出発していたのでは、広告で身を立て、圧倒的な影響力を持つことはできなかったであろう。

550頁もの本書の書評のためには、電子版ではなく、読み返しやすい印刷本のほうが都合が良かったことを報告しておこう。