御名残四月大歌舞伎・第三部


「実録先代萩」は現歌舞伎座での中村芝翫中村宜生片岡千之助を観るために設定された演目であろう。芝翫新歌舞伎座ができた時点で85才を超えているはずだ。宜生は橋之助の3男で芝翫の孫である。千之助は考太郎の長男で仁左衛門の孫である。正直なところ感想らしき感想はない。20年後に語るべき舞台であろう。

じつのところ、それはそれで嬉しいものだ。なにか事があって、次に歌舞伎座に行くのが20年後だとしても、宜生と千之助は名前を変えて舞台をつとめているはずだ。京都の老舗のお茶屋さんとおなじである。歌舞伎も花街も自分よりも遥かに寿命が長いのだ。ある意味で実家以外に帰る場所を持ったようなものだ。何十年たってから行ってみても誰かがそこにいて、受け入れてくれることは間違いない。

うってかわって「助六」はめくるめく豪華絢爛の大芝居だった。団十郎助六、白酒売の菊五郎、揚巻の玉三郎、くわんぺら門兵衛の仁左衛門、白玉の福助、福山かつぎの三津五郎、もちろん意休は左團次である。簡単に言ってしまうと、すべての役者が良かった。みんな楽しそうだった。その中で松也・梅枝の傾城たちは微動だにせず立派。

勘三郎はやはりただものではない。舞台に入ってきた瞬間から大笑いさせる気でいることが一目でわかる。しかも昨日は股くぐりで矢立てを草履に深く刺し込みすぎてしまい、なかなか取れなかった。その時のアドリブが面白く、こちらを向いてる団十郎も笑ってるし、向こうを向いてる菊五郎も背中で爆笑していた。しかし、さすがに団菊と玉三郎はそこからしっかりと本来の助六に戻しきる。そこにまた感心しきりである。

海老蔵の口上は声の出しかたが相変わらず不思議なのだが、心がこもっていてとても良かった。写真はあやかり商品の白眉「御名残膳」3500円なり。観劇記念マグネット付きである。