そろそろインフレ

もしかすると企業物価指数が上昇し始めているのかもしれない。今日の日経商品面だけを見ても、薄鋼板、ナイロン原料、針葉樹合板、PBT樹脂、鋼管、ステンレス、貨物用船料のすべてで上昇中である。ガソリン卸値も上昇している。

いっぽうで、ゴールドマン・サックスエコノミスト、ジム・オニールが、中国政府は国内のインフレ圧力を緩和するため2〜3カ月内に自ら切り上げに動くと予測している。
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資源国の通貨も上昇中だ。昨日、カナダドルは1年8ヶ月ぶりの高値をつけた。


原材料高に連動して素材企業が販売価格を押し上げ、さらに資源と消費財を生産する国の通貨が上がれば、円安と国内では消費者物価もインフレへと転換が始まるはずだ。日銀は適度と思われるインフレ率以内であれば容認するであろう。結果的に先進国間の通貨安競争に日本も参加できるかもしれない。思いつきの思考実験をしてみよう。

1.インフレ下では、定期預金や生命保険、各種年金などの金融資産がある人は損をして、住宅ローンなどの借金がある人は得をする。結果的に高齢者から若者への所得移転が起こる。一旦、インフレがはじまると企業業績は名目で示されるので、企業の売上は好転し株式市場も上昇する。そのため、預金や保険から投信などへの移動が始まる。結果的に国債に売り圧力が加わり長期金利は上昇する。

2.長期にインフレが続くと、国債の償還は楽になる。つまり、将来世代の負担は軽くなる。国債で多くを運用していた金融機関は評価損を抱えることになる。あたりまえだが、この場合の金融機関とは一般の銀行や保険会社だけでなく、年金機構はもとより、日銀やゆうちょ銀行、かんぽ生命や農協を含む。資産構成を考えると、後者への影響が遥かに大きいはずだ。後者は構造的に顧客の多くが高齢者であり、ここでも高齢者からの所得移転が進むことになる。

3.通貨安で輸入品が高くなるためマグロもタコも値上がりし、寿司は高級グルメに回帰する。結果的に地中海の資源問題は消え去る。たこ焼きに入っているタコは小さくなる。輸入飼料に頼っている卵も牛肉もパンも値上がりする結果、消費が減るから自給率は向上する。

4.ブラジルや中国の為替レートが変化すると、安い労働力は帰っていくことになり、国内での単純労働の需給が逼迫する可能性がある。企業は正社員であれパートタイマーであれ、同一労働同一賃金を提示して労働力を確保しようとし始める。結果的にベースアップはなくなり、インフレ率連動になる。

5.インフレ傾向に転換すると政府は消費税を上げにくくなる。法人税の自然増が期待できるが、それだけでは国債を償還するための原資にならないから、上げやすいタバコ税は1本30円に。結果的に喫煙率は下がり、医療費が徐々に下がりはじめる。

ともあれ、日銀が示す消費者物価指数は生活実感に比べて、しばらくは上昇しないかもしれない。その原因はヘドニック・アプローチだ。ヘドニックアプローチとは、たとえば期間中にパソコンの価格が変化しなくても、性能が上がれば価格は下がったとみなす計算法である。すでに消費者が使うパソコンの性能と効用には以前ほどの相関はないから、ヘドニック・アプローチは実体よりもインフレが進んでいるように作用するはずだ。ちなみに、1990年代はパソコンの性能が年に20%上がるため、消費者物価指数は0.01%押し下げられていたのだ。その結果、日銀のインフレへの対応が遅れる可能性があり、それこそが日本にとって僥倖といえるのかもしれない。

国民の多数を占める高齢者が消費税を上げる政党に投票するわけはない。医療費も年金もくれる政党に投票するはずだ。しかし、それではあまりに若者に未来がなさすぎる。なにがなんでも円安とインフレで、投票行動を伴わなくてもすむ状況転換が必要だと思う。若者は価格破壊をしつづける2社よりも、価格を維持している吉野家を支持するべきかもしれない。安いジーンズ3本よりも、3本分の値段のジーンズを1本買うべきだろう。