Eje Thelin / So Far

So Far

So Far

中古レコードといえば、コンディションの問題は避けて通れない。非接触型のデジタルディスクと違って、レコードはカートリッジが溝をトレースしなければ音楽信号が拾えないのだから、レコード針がレコードを削り取っているようなもの。花の命は短いのだ。アナログレコードって、とても人間的なのである。

レコードは聴けてなんぼのもの。いくらレア盤だろうが針飛びする盤は論外だし、延々とジャリジャリしたノイズが入る盤や、いいところでブチブチとノイズが 入る盤は願い下げ。私の基準は、ブチブチノイズは連続3回までが許容、ブチブチがなくてもジャリ盤はパス。このチャンスを逃したら、二度とお目にかかれな いような超レア盤でもこの基準は変えないことにしている。時々、誘惑に負けて基準を緩めてしまう時も正直言うと・・・あるけど。

入手する際は、必ず試聴することにしている。見た目がきれいでもジャリ盤だったり、逆に表面が擦り傷だらけでも全然問題なかったりするから、中古レコードは困りものなのだ。大枚はたいた美人さんがジャリ盤だと泣くに泣けないが、その逆の場合はついにやけてしまう。

中古レコード屋さんは基本的に外観で値決めする。見た目がきれいなら高いし、悪ければ安い。中古店にもよるが、大体4〜6段階にグレーディングを分けている筈だ。店によって異なるが、グレーディングの違いによる売価差は結構大きい。売価は、時々の仕入れ状況にも拠る。

中古は値段があってないようなものだから、同じようなコンディションであっても、ある店では5万円、ある店では1万円というケースもあり得る話だ。おいしい思いをしたいのであれば、足しげく中古レコード屋回りをするしかない。こればかりは、運とタイミングと決断力の問題である。

この不景気なので、全体的な中古レコード相場はすっかり下がってしまったが、コンディションのいい人気のレア盤は逆に上がっている。単純に、いいものが市場に出てこなくなってしまったからだ。仕入れがしにくい、できないといった状況は、中古レコード屋さんにとって死活問題である。店舗を構えている中古レ コード屋はずいぶん減ってしまった。

そのくせ、ネットオークションでレコードを売るケースは増えているし、ネットの世界では相場が上がっているから面白い。ネットは、あまりレコードに詳しくない若者も参加できてしまうので、人気のクラブDJなどの発言次第で、とある盤に入札が集中してしまうような傾向があるようだ。ちょっと探せばすぐに見つかりそうな盤でも、中古レコード屋市場の数倍で取引されることもあるらしい。入手した本人が満足しているのだから、他人がとやかく言うことではないのだ が、知らないということは怖ろしいし、かわいそうと思ってしまう。

妙につりあがってしまう相場の問題だけでなく、コンディション表記が曖昧どころか独りよがりのケースがあるようなので、ネットオークションで中古レコードを取引することはやめておいた方がいい。楽して、安く、いいものを手にすることなど、所詮できないのである。

今回は Eje Thelin / So Far を紹介しよう。レーベルは Columbia EMI。1963年、ストックホルムでの録音。 Thelin は、スウェーデンのトロンボニストである。ボントロ(トロンボーンの隠語)のリーダーアルバムは、田舎臭いか、のんびりホンワカか、渋すぎなプレイが多いので、実はあまり好きではなかったりするのだが、このアルバムだけは別。昔からの数少ない愛聴盤である。知的で、テンション高くて、研ぎ澄まされたような 北欧の上質なハードバップが堪能できる名盤。昨年、日本のインディーズレーベルから、初めてCDで復刻されたようだ。この手のCDは、入手できるうちに入手しておかないと、後でエライ目に合うので要注意。入手できなくなった途端、あっという間に中古相場が上がってしまうのではなかろうか。

ここ数年来の日本のレーベルによるヨーロッパジャズの復刻の功績は賞賛に値すると思う。日本では一部のマニアしか知られていない名盤を拾うことは、ビジネスとしてとても苦しいはず。一番喜んでいるのは海外のJAZZファンかもしれない。日本のJAZZファンは幸せである。

(JHS-JAZZ 山田)