食糧自給率を上げるのは無理だ

ボクは自給率について「自給率を上げるべきか否か」という疑問はもっていない。「自給率を意図的に上げることは無理だ」が答えである。

まずはカロリーベースの自給率の中身を平成20年のデータで見てよう。
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/0316.html

計算の大前提である総供給熱量は2551kcal、最大の熱源は米で597kcal(自給率は95.6%)、次に大きい熱源は畜産物で399kcal(自給率は15.8%)、第3位は油脂で363kcal(自給率はなんと3.3%)第4位は小麦で324kcal(自給率は13.9%)、第5位は砂糖で207kcal(自給率は33.3%)。この5品目でカロリーベースの74%を占める。

このことからカロリーベースでの自給率を効率的に上げるためには

1.肉と油や砂糖の消費を劇的に下げる
2.とうもろこしなどの飼料と油脂を自給する

の2択になりそうだ。2つともまず無理だ。1についての政策があるとすると、肉、食用油、砂糖への個別消費税、または関税の大幅引き上げなどの輸入制限などであろうか。双方とも自給率を上げるために行うべき政策とはとても思われない。2については以下のごとく完全に無理だ。よって「自給率を意図的に上げることは無理」なのだ。

鶏卵の96%は国内生産である。しかし鶏卵をつくるための飼料の自給率が9.7%であるため、鶏卵そのものの自給率は9%と計算されてしまう。もっとも国内生産率の低い主要畜産品は牛肉で39%、しかし牛肉用飼料の自給率は案外高く26%だから、牛肉の自給率は10%となる。
http://www.e-shokuiku.com/jyukyu/13_1.html

ところで、飼料養鶏飼料の主原料はとうもろこしで50−60%、それに大豆かす、ふすまなどを添加している。つまり、とうもろこしだけでも自給できれば、すくなくとも鶏卵の自給率は一気に50%近くにまで跳ね上がる。他の畜産品も同様だ。

アメリカのとうもろこし作付け面積は日本の国土をほぼ同じ面積である。年間生産量は3億トン。日本は1500万トン輸入している。つまり、とうもろこしの自給率を100%にするためには、アメリカと同じ生産効率をもってして、日本は国土の5%をとうもろこし畑にしなければならない。しかもとうもろこしは飼料の50−60%でしかないので、ほかの大豆や小麦、菜種などの作物も自給率を100%にするためには、おそらく日本の国土の15−20%を再開発しなければならなくなるはずだ。ちなみに日本の沖積平野は国土の10%である。この10%に人口の49%、資産の75%が詰まっている。食生活を変えずに自給率を100%にするためには、たとえば国土の22%を占める北海道を完全に切り崩して大平原にする必要がある。どうみても無理なのだ。
http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/anpo/pdf/bouekikouzou.pdf

第5位の砂糖を自給しようとしたら、もはや侵略的に国土を広げるしか手がないかもしれない。いくらなんでも、さとうきび畑ほしさに戦争を仕掛ける国は過去にも例がない。

さて、多くのひとが懸念する「有事の際の自給率」だが、これもあまり心配はいらないかもしれない。もし、アメリカとの関係が家畜飼料を売ってくれないほどの政治的な状況になったとすると、にわとりのエサの心配をしているヒマなどない。株価も為替も暴落しているはずで、日本人は肉を買ったり、ポテトチップスを食べたりする金銭的な余裕はなくなる。自動的に自給率はあがる。同時に総供給熱源は下がり、メタボは減り、医療費は下がるであろう。つまり単に1950年あたりの食生活の戻るだけのことだ。水資源や地球温暖化などによる世界的凶作に対する恐怖についても同様だ。結果的に肉価格などが高騰して均衡に向かうだけだ。

結局は人間は何百万年も手に入るものを食べているだけのことだ。たまたま、いまの日本人は肉や油が簡単に手に入るだけであり、手に入らなくなったらちゃんと別のものを生産して食べていくであろう。そしてそれがやがて固有の食文化と呼ばれることになる。ちなみに餓死が起こるのは「戦争」よりも「内乱」のときだ。




必要耕作面積を再計算してみた。使用した資料は

米国農務省2016年までの農業予測

http://www.afc.jfc.go.jp/information/investigate/international/pdf/04-01s.pdf

農水省の貿易構造のまとめ

http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/anpo/pdf/bouekikouzou.pdf

だけだ。

アメリカにおける作物別の作付け面積、収穫量、日本の世界からの輸入量はそれぞれ

とうもろこし 9000万エーカー、3億トン、1500万トン

大豆 7000万エーカー、7000万トン、440万トン

小麦 6000万エーカー、6000万トン、540万トン

つまり日本が輸入しているとうもろこしの耕作面積は

9000万エーカーX(1500万トン÷3億トン)だから450万エーカー

おなじく大豆は440万エーカー、小麦は540万エーカーだ。

3つの合計は1430万エーカーである。

ところで日本の国土は377,835平方kmであり、1平方kmは247.1エーカーだから日本の面積は約9300万エーカーである。

つまり3つの作物を100%自給するためには、日本の国土の15%を必要とすることになる。ちなみに日本最大の関東平野は国土の4.5%、約420万エーカーである。やっぱり、北海道を真っ平らにしなくてはならなくなってしまった。