『「透明人間」の作り方』

透明人間の作り方 (宝島社新書)

透明人間の作り方 (宝島社新書)

じつはつっこみどころ満載の本である。本書のテーマはいわゆる攻殻機動隊でいうところの「光学迷彩」またはハリポタの透明マントの実現可能性を工学的に紹介することらしいのだが、前半は透明人間の倫理やら生物の擬態の話が延々と続いていて、いかにも本にするには薄っぺらすぎるので追加しましたという感じだ。

メインの「透明人間」の科学の章では、2006年に「サイエンス」に論文掲載されたクローキングデバイスの説明がなされる。このデバイスは隠したい物体の背後からの電磁波の屈折率を負にすること、つまり電磁波をいわば迂回させることを目的にして開発されたものだ。

この説明にあたって著者は一所懸命なのだが、バカにされているような気になる読者もいるだろう。なにしろ「後ろからの光が見えて、邪魔された物体は見えないから、結果的に透明に見える。これが今回の第一原理となります」と説明した次の行で、「ちょっとわかりにくいですか?」と読者に聞いてきたうえで、再度説明をしなおしたりするのだ。はっきりとは言いにくいが文章が下手なだけだ。

じつは透明化には二つの意味がある。ガラスのようにそのもの自体が透明な物体をつくる技術と、不透明の物体をあたかも透明のように見せる技術の二つだ。本社は後者を取り扱っている。しかし、この「透明人間」にこだわらず、物質そのものの透明化も紹介すれば良かったのだ、たとえば電磁波励起透明化現象によるレーザーの冷却問題の解決や短波長レーザー開発可能性などだけでなく、透明化による量子暗号なども議論されているからだ。RFIDなどの応用分野でも電磁吸収体の透明化商品が開発されている。

本書は「透明人間」だけではページ数が稼げなかったのか、最後の章はステルス戦闘機の話になってしまう。これでは、透明化というより電磁波吸収技術の話になってしまう。あまりにも面白く最近流行の透明化技術を伝えようとして気負いすぎているような感じなのだが、じつは現在の主要な技術が網羅されているようだ。日経サイエンスの特集記事を別売で買ったという感じである。★★☆