For Lady

For Lady

For Lady

その昔、CDとLPはどっちが音がいいのかといった随分無茶な論争が流行ったことがあった。私にとっては、自分が聴いていて酔える音はいい音だし、酷い音は悪酔いするので聴きたくないだけで、メディアはなんでもいい。それはレコード(CD)に入っている中身の質とは関係ないこと。好みは人それぞれであっていいし、音の良さって洋服のようなものだと思う。音楽の本質は変わらなくとも馬子にも衣装。聴く音によってJAZZに対する感じ方や想いは変わってくる。

JAZZレコードを一つの完成された芸術作品と考えると、そのオリジナリティはとても重要なファクターとなる。レコード自体、複製品ではあるのだが、初版本と同じく、時代を経るほどオリジナル(ファースト・プレス)の価値は一層高まっていく。レコードに記録された中身の本質はあくまでオリジナル盤に記録されたものにあり、再発盤やCDは、完成された先人の時代記録作品に、後人が勝手な解釈を加えて新たな時代を上書きしたようなもの。上書きの内容によっては、時代感と共に作品の本質が薄まって(変質して)しまい、比例して音も見事に薄まって(悪くなって)しまう。アーティスト本人の意向によるリミックスや、リマスターならともかく、その時点での権利所有者が再発したディスクを聴いていい音だと思ったことは一度もない。本の増版とは訳が違うのである。

オリジナルがSPで出たものは蓄音機で、LPレコードで出たものはその当時のオーディオシステムで、CDで出たものは勿論CDで現代オーディオシステムで聴くようにしている。それが私にとっては一番良い音で楽しんでJAZZを聴けるから。 HMV163という1920年代に作られたフロア型の蓄音機でドリス・デイをかけていたら、当時2歳の娘が近寄ってきて、「これ好き〜」と言いながらうっとりして聴いているのに驚ろかされたことがある。同じ録音を LPでかけていた時には「うるしゃぁい」って言ってたくせに。人間の本能なのか、音の好みも親子で似るものなのか。

これからJAZZでも聴いてみようかと思ってくれる人には、音の良さ云々よりも、 ポッドキャストでも構わないから、先ずは気軽にJAZZに親しんで欲しいと思う。 今回は、Prestigeからリリースされた「Webster Young / For Lady」を紹介しよう。1957年6月の録音で、12インチLPがオリジナルフォーマット。タイトルのLadyとは、ビリー・ホリディのこと。カバー写真といい、抑制されたプレイといい、正に時代を体感できるレコードで、こういう雰囲気のプレイはこの盤でしか聴けない。いいJAZZの代名詞的なレコード。最高のBGM。

(JHS-JAZZ 山田)