吉例顔見世大歌舞伎・夜の部


今日は外国人が多く、ロビーでは英語やフランス語も飛び交っていた。一階の前から4列目あたりに身長2メートルはあろうかという白人のおじさんが席をとっている。真後ろの人はさぞかし今日の己の不幸を呪ったにちがいない。しかし、そのおじさんも迷惑にならないよう、低く座ろうと体を折って必死である。いい人だ。

客席が涙で埋め尽くされた仁左衛門藤十郎寺子屋が一本目だ。身代わりで死ぬのは本人ではなく、自分の子供というストーリーなのだから、外国人は驚いたに違いないと思いながら、周りを見回したらその外国人の1人が泣いていた。芸の力は偉大だ。仁左衛門本人も泣いていた。色っぽい藤十郎も泣かせる。綾太夫も泣かせる。

反対に船弁慶では前半、静御前で寝ている人がちらほらいた。涙をふり絞って夕食をとり、ほっとしたあとの静かな踊りに睡眠中枢が反応してしまうようだ。後半は一転、菊五郎の知盛が音を立てずにおどろおどろしく舞台を駆け回る。知盛の幽霊は船外から義経一行を攻め立てるのだから足音などがしないのが本筋なのだろう。かっこよい幽霊だった。芝翫富十郎はこれぞ模範演技の体。四人の若者がキレイ。

最後は3代目時蔵50回忌追善なので萬屋総出の嫗山姥だ。みんな息もぴったりで、楽しんで演じている様子。八重桐の時蔵義太夫で粋に顛末を語る様子も楽しいが、錦之助の太田十郎一味との立ち回りでは、実際に体が非連続に大きくなる。時蔵から文字通り目を離せない。歌昇のお歌がかわいらしい。梅枝は楚々。赤姫は腕が疲れるだろうなといつも思う。もう一度見たい舞台だった。