TPPと食糧自給率

TPPの議論が喧しい。その中で与野党問わずTPP反対論を唱えながら、自給率を上げるべきだと訴えている政治家がいる。はたして日本が3大穀物自給率を100%にするためには、どの程度の追加的な耕作面積が必要なのだろうか

「米国における主要穀物の作付け面積」「米国におけるそれぞれの収穫量」「日本が世界からの輸入する量」はそれぞれ

トウモロコシ 9000万エーカー、3億トン、1640万トン
大豆 6900万エーカー、8500万トン、440万トン
小麦 6000万エーカー、5900万トン、540万トン

である。

つまり、米国は9000万エーカーを使って3億トンのトウモロコシを作っているのだ。1エーカーあたりの収穫量は3.33トンということになる。いっぽう、日本は世界中から1640万トンのトウモロコシを輸入しているから、世界中のトウモロコシ生産効率がアメリカのそれと同等だと仮定して、日本が輸入しているトウモロコシの生産に使われている耕作面積は497万エーカーである。


おなじく大豆は1エーカーあたりの収穫量は1.23トン。日本が使っている耕作面積は358万エーカー。小麦は1エーカーあたり0.98トン。日本が使っている耕作面積は551万エーカーである。すなわち、日本が輸入しているこの3大穀物の生産に使われている耕作面積は1406万エーカーということになる。

ところで日本の国土は377,835平方kmであり、1平方kmは247.1エーカーだから日本の面積は約9300万エーカーと読み替えることができる。

この3大穀物を生産するためだけでも、9300万エーカーの日本国土のうち1406万エーカーをなんとか捻出しなければならないということになる。これは国土の15%である。

いっぽう、日本最大の関東平野でも国土のわずか4.5%、約420万エーカーでしかない。新たに関東平野の3倍の面積を作りだす必要があるのだ。

そこで、考えられることは超巨大土木工事を行い、四国や中国地方の山をすべて削りとり瀬戸内海を埋め立てるという案が浮上するであろう。領海法によると瀬戸内海の面積は1万9700平方キロであり、これは487万エーカーに相当するのだ。超巨大土木工事が完了するであろう数百年後には、はれて日本は自給率100%となるであろう。

瀬戸内海埋め立てで四国や中国地方も平野になるので、耕作面積は必要量の倍になるではないかと気づいた方も多いだろう。しかし日本は砂糖も菜種も蕎麦輸入に頼っているのだ。それどころか飲料に使われている甘味料の大部分はコーンシロップが原料だから、大量の濃縮したトウモロコシを別に輸入していることになる。もちろん、牛もブタも鶏肉も濃縮された穀物である。

政治家はそれでもまだ日本の食糧自給率を100%にするという妄言を言い続けるのであろうか。

ちなみに使った資料はこの2点のみであり、上記は小学生でも計算できる。

米国農務省2016年までの農業予測
http://www.jfc.go.jp/a/information/investigate/international/pdf/04-01s.pdf

農水省の貿易構造のまとめ
http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/anpo/pdf/bouekikouzou.pdf

ちなみに、ボクはTPP懐疑論者だ。その理由は日本から水田がなくなったときの保水力の低下を懸念するからであり、農家保護の観点からでも、ましてや自給率のためではない。日本の場合、水田の保水力は全ダムの3.4倍もあるのだ。さらに水田の温度調節効果や大雨のときの土砂流出防止効果などを考えると、日本の水田が滅ぶことは許されないと思う。水田農家には個別補償ではなく、むしろ国土保持協力費としてその努力に報いるべきなのである。