Patty McGovern / Wednesday's Child

WEDNESDAY'S CHILD

WEDNESDAY'S CHILD

音楽は、人生を豊かにしてくれる。人によって好みの音楽は異なるが、私を一番
気持ちよくさせてくれる音楽は、やはりJAZZ である。JAZZ はたかだか100年の
歴史しかない。そのくせ、ある意味、既に成熟しきってしまったジャンルなのか
もしれない。たった100年で、だ。どれだけ濃密な 100年だったのだろう。


成熟したということは、新たな個性の突出が見られないということに他ならな
い。私が、最近の JAZZ に馴染めないのは、何を聴いても平均的で、金太郎飴の
ようだからだ。馴染めないだけで、決して聴かない訳ではない。きれいで、なめ
らかで、BGM としてなら極上だし、最近の JAZZ はいい録音のものが多いので、
オーディオ的には面白い。でも、もう一度聴きたいと思うような CD には滅多に
お耳にかかれない。みんな優等生なのだ。だから、つまらない。今まで聴いたこ
とがないような JAZZ を、私が今まで聴いたことがないような JAZZ が聴きたい。
そう願ってやまない私のお気に入りは、実は「上原ひろみ」なのだ。彼女の CD
には興味がないが、コンサートには是非行ってみたい、行きたいと思いながら、
数年経つ。


芸術は、受け手にもそれなりのレベルと教養を要求するものだ。自分の直感で好
き嫌いを論じることを否定するわけではない。それはそれで、その人の芸術に対
する楽しみ方であり、スタンスであるのだから。でも、下手の横好きでは、所詮
うわべだけしか見ることができないと思うのだ。


どうせなら、好きこそものの上手なれでありたい。芸術の本質を知ろうとする努
力の先には、新たな世界が広がることだろう。そのために、JAZZ の歴史をひも
とくことは必須のことだと思っている。ひもとくと言っても、ジャズ本読んでの
お勉強とかということではない。食わず嫌いすることなく、全てのタイプの
JAZZ を一度聴いてみて、気に入ったタイプ、時代の JAZZ を見つけて掘り下げ
るだけでいいのである。

JAZZ は歴史の産物である。歴史認識に偏見をもってはいけない。時代を担った
ジャズマン達は歴史の証人であり、生涯現役プレイヤーなのだ。そんなプレイ
ヤーの遍歴をたどってみるのも、JAZZ の歴史をひもとくことになる。栄枯盛衰
は、この世の常なのだ。


いま来日しているハンク・ジョーンズなど、御年91歳。1940年代から活躍してい
る。こんなご老体が現役で活躍する音楽なんて、JAZZ 以外あり得ない。


今回は、Patty McGovern / Wednesday's Child を紹介しよう。レーベルは
Atlantic 、1956年ニューヨークでの録音。彼女が残した唯一のレコード。なん
てったって、映画のワンシーンのようなこのカバー写真の雰囲気がたまらない。
眺めているだけで、聴いた気にさせられてしまいそうだ。そうそうたる職人達の
バッキングが、清楚で落ち着いた彼女の歌声を一層引き立てる。他の大手レーベ
ルに比べ、ただでさえ CD で再発されることが少ない Atlantic の JAZZ レコー
ド。このレコードは、アレンジャーを勤めた Thomas Talbert が権利を保有して
いるため、国内盤の中古レコード、CDともに輪をかけて入手が難しい。現在、
HMV JAPAN ならかろうじて輸入盤CDが入手できるようだ。こういう CD は、入手
できるときにゲットしておかないと、後で泣きをみることになる。

(JHS-JAZZ 山田)