トヨタについて一言
トヨタが全世界的な品質管理体制を見直すという。たしかにブレーキペダル問題は品質管理の問題であろう。しかし、ハイブリッド車のブレーキセッティング問題は、回生ブレーキとABSなどとのタイミングとバランスのとり方だから、品質問題というよりも設計思想の問題なのかもしれない。
5年ほど前のこと、当時のレクサス・ハイブリッド最上位モデルのチーフ・デザイナーと話す機会があった。トヨタの広告のためのインタビューだった。事前にその車を1週間お借りして、実車で体験をしてからトヨタ本社に向かった。
クルマ自体には満足だと申し上げた。しかし、表面上の内装がチグハグなことを指摘させてもらった。まずはインパネの真ん中に、安っぽいデジタル時計が埋まっていることだ。100円ショップでも売っていそうな、現在時間を表示するだけの長方形の時計だ。しかも、そのためにダッシュボードはモールドされているほどだ。
次にインパネの真ん中にあるレクサスのマークが金色であることを指摘した。内装はシックなブラックとシルバーでまとめられているのに、マークだけが金色に燦然と輝いていて、まさにシャチホコ状態なのだ。
つまらないことだと思われるかもしれない。しかし、このことを指摘したあとのチーフデザイナーの顔が忘れられないのだ。おそらく独立した時計も、金色マークも設計基本マニュアルに書いてあり、それから各車のデザイナーは逸脱できないのだ。
ハイブリッドのブレーキ問題に対する、当初の技術陣のレスポンスが生堅かったのは、それがすでに設計基本マニュアル化していたからではないのだろうか。だとすると、こちらのほうがトヨタにとっては大問題であろう。設計の自由度を少しでも増やすべき時期にきているのかもしれない。
それにしても、豊田社長が全米ディーラーや従業員を前にして、声を詰まらせたのを見て恐ろしくも感じた。トヨタ本社以上に苦しいはずのデューラーや従業員が、最高責任者の自分を励ましてくれたのだ。申し訳なくも、有難かったに違いない。これで全世界のトヨタの販売サイドは間違いなく、さらに強くなる。シートベルトを引き締めるべきは、ライバル企業たちかもしれない。