『極付歌舞伎謎解』 『夢の江戸歌舞伎』 『歌舞伎通になる本』

絵本 夢の江戸歌舞伎 (歴史を旅する絵本)

絵本 夢の江戸歌舞伎 (歴史を旅する絵本)

歌舞伎通になる本

歌舞伎通になる本

大向うの人々 歌舞伎座三階人情ばなし

大向うの人々 歌舞伎座三階人情ばなし

じつはお薦めの歌舞伎入門書というのがあまりみあたらないのだ。多くの歌舞伎に関する本が「ストーリー紹介」であったり、「役者リスト」であったり、立派な「演劇論」であったりするばかりで、「歌舞伎ってマジ面白いんだよ」という、共感を求めるように書かれている本が少ないのだ。

江戸時代から歌舞伎ファンの多くは「役者」を見に来ている。自分が贔屓にする役者がどう演じるかを見たいのだ。したがって、他の役者の演技と比べるためにストーリーも演出も同じものほうが都合がよい。それゆえに何百年も続く演目が好まれるように思う。つまりストーリーだけを本で読んで知っても、歌舞伎の面白さの半分以下でしかないのだ。

歌舞伎には子役も登場する。その子役が役者の子供であることが多い。歌舞伎ファンはその子役が20年後、40年後にどんな役者になっているかを想像しながら期待を込めて見ている。そんな長期的な想像が可能な理由は20年後、40年後も同じ演目があることが保証されているからだ。したがって世襲制が基本となることは仕方がないと思う。観客こそが世襲を期待しているのだ。歌舞伎はまた役者が成長して大名跡を襲名するなどの節目も用意している。そんなことを背景に代々の「役者リスト」本などが書かれているようだ。しかし、これも歌舞伎のサイドストーリーである。

ましてや立派な「演劇論」はまったく読む気にならない。本当は歌舞伎座を江戸時代の芝居小屋に戻してもらって、大相撲のように升席を復活してもらい、酒や弁当を使いながら「見物」したいのだ。そして菊五郎がでようものなら「ヤァヤァ」と声をかけたいものだ。そんな心象風景だから西洋かぶれの学者などによる「演劇論」は無用である。

そこで苦しいながら本をピックアップするとまずはNHKのテキストになってしまう。dotcomさんがコメントで番組を紹介してくれているが、実際この番組は面白かった。8回連続だったのだが、それぞれに付けられたタイトルも秀逸だった。「お約束のヒーロー登場『暫』」「和製ホラーの女王『東海道四谷怪談』」「幕末版「おれたちには明日がない」『三人吉三廓初買』」などだ。歌舞伎が初めての人は、この番組で紹介された8本の演目が登場した月に歌舞伎を見にいくとかなり楽しめるかもしれない。

『夢の江戸歌舞伎』は絵本である。とはいっても絵は漫画家の一ノ関圭だ。鳥瞰を多くつかって江戸時代の芝居小屋を復元している。ひとつの画面に200人以上もの人物が描きこまれていて、当時の賑わいを想像できる楽しい大人の絵本だ。客席は升席であり、飲むは食うわで楽しそうだ。良くみると楽屋などの舞台裏は現代とほとんど同じだ。舞台がはねて、楽屋へは御祝儀の酒樽が運ばれ、奈落では裏方が疲れ果てて寝ている。なぜ、本書を紹介するかというと、歌舞伎は「絵のような」演劇だからだ。読むより、見るほうがわかりやすいこともあるのだ。

はじめて歌舞伎座に行くとイヤホンガイドを借りたほうが良いかもしれない。とりわけ舞台から遠い席の場合は、イヤホンガイドがあると役者の台詞の聞こえやすくて都合がよい。イヤホンガイドは専門家がリアルタイムで解説してくれるものだから、その専門家によって個性がある。もし『歌舞伎通になる本』の著者である小山観翁が担当だったらラッキーかもしれない。

歌舞伎は江戸時代からのものだから、使われる言葉が古い。初心者は演目によってはまったく何をいっているのか判らないこともあるだろう。台詞以外の用語も古い。その独特の用語を辞書のように項目別ではなく、調子よく文章のなかで解説しているので歌舞伎らしい読み物だ。かなり年期の入ったファンから初心者まで楽しめる本であろう。

以前に紹介した『大向うの人々』はいうまでもなくお薦めだ。