東洋経済 9月5日号掲載 「ゴルフざんまい」

スポニチによれば全英オープン後の石川遼が、タイガー・ウッズとのラウンドの感想を聞かれて、「後ろを歩く機会が多かったので、いつもタイガーの延長線上を歩いてた。腰から頭のてっぺんまで一直線で、地面と垂直にスーッと進んでいく感じ。あんなきれいな歩き方をする人は見たことがない」と答えている。

石川は事前のインタービューでもタイガーから歩く姿勢を学びたいと答えていたらしい。これを自ら気づいたのだとすると、彼は間違いなく天才である。コーチや父親の意見を取り入れたのだとしても、石川は偉大なプレーヤーになりうることは間違いないと思う。

他人から何かを効率的に学ぶときの最高の方法はその人になりきることだ。秘訣を聞くようなことはむしろ二の次だ。話し方や歩き方だけでなく、口癖や視線の配り方にいたるまで、まずは外形をコピーすることが極めて重要だといわれている。

傑出したスポーツ選手や学者、画家や俳優などのアーティストは必ずといってよいほど憧れの先生や先輩の個人名をあげることができるように思う。それにくらべると、ほとんどのビジネスマンには憧れの先輩などはいないのではなかろうか。

そもそも現代のビジネス界にはお手本となるスーパースターが少ない。松下幸之助本田宗一郎など、どんなに素晴らしい経営者でも、亡くなった人からは、本を読んで経営の秘訣を覗きみるくらいのことしかできない。このお手本となる経営者の不在こそが、日本経済低迷の遠因ではないのかと疑っている。

ゴルフだけでなく経営においても、ハウツー本を読むだけではスーパースターは生まれないのだ。本物を身近にみてこそ人は育つのであろう。

ところでタイガーが憧れていたのはジャック・ニクラウスだったことは有名だ。タイガーはスイングの真似こそはしなかったようだが、二人とも好きなコースはセントアンドリュースだし、メディア対応についてもニクラウスのアドバイスを受け入れたといわれている。

そのタイガーが今年のザ・メモリアル・トーナメントで優勝した。このトーナメントはジャック・ニクラウスが設計したコースで行われる。いわばボビー・ジョーンズのオーガスタに対する、ニクラウスの北のオーガスタなのだ。

最終日4打差でスタートしたタイガーは圧倒的な追い上げで勝ったのだが、喜色満面さはメジャーで優勝したときとかわりがなかった。ニクラウス主催の試合で復帰できたことが、よほど嬉しかったに違いない。

おそらくタイガーは生まれ育ったカリフォルニアに西のオーガスタを作るであろう。そのタイガーに憧れる石川遼は日本に東洋のオーガスタを作ることができるであろうか。