『モーターファン・イラストレーテッド Vol21』

2006年に復刊をはたした自動車雑誌『モーターファン・イラストレーテッド』の最新号である。今回の特集は「トランスミッション進化論」だ。この別冊の表紙には「テクノロジーがわかるとクルマはもっと面白い」という謳い文句が書いてある。まさにそのとおりなのだ。逆にいうと、テクノロジーがわからないとクルマは面白くない。それ自体に愛情を感じるような商品にはなりえないということなのだ。

国内新車販売台数は1990年の778万台をピークに減り続けている。昨年度の実績は532万台で、32%ほども下落したことになる。この原因については飽和や可処分所得の低下、若者のクルマ離れなど諸説いわれている。外部要因としての飽和や所得についてはいかんともしがたいのだが、若者のクルマ離れを食い止めれないのは自動車業界の怠慢である。

じつはピークの前年である1989年に、自動車雑誌『NAVI』の編集長が大川悠から2代目の鈴木正文に代替わりした。『NAVI』の兄貴分はいわずと知れた『カーグラフィックス』であり、モータースポーツを取り上げ、自社で長期使用テストをするなどハードな編集で知られている。

『NAVI』も当初は社会派自動車雑誌として創刊されたのだが、鈴木編集長の登場以来クルマをファッションの一部として取り扱うようになってしまった。アルマーニプラダとタイアップしたグラビアが出るに及んで『NAVI』を卒業した読者は多い。鈴木編集長はクルマに対する社会の風向きを先読みできたのだろう。

しかし、クルマがテクノロジーからファッションになるのに同時平行して、クルマのテクノロジーブラックボックス化していった。極端なハイテク化も進んだのだ。結果的にクルマは面白くなくなってしまった。そして若者はクルマから離れていった。

最後の硬派自動車雑誌『モーターファン・イラストレーテッド』は最先端のクルマのテクノロジーをエンジン、ダンパー、エキゾーストなどの機能別に一冊にまとめて紹介する雑誌だ。この雑誌から日本のクルマの風景が少しずつ変わるかもしれない。