『大人げない大人になれ!』の文庫版が発売されます

大人げない大人になれ! (新潮文庫)

大人げない大人になれ! (新潮文庫)

2009年にダイヤモンド社から発売されたときの価格は1500円。今回、新潮社から文庫化されて515円。電子版より安いやんか!太っ腹!リアルも最近太っ腹!




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『さか上がりを英語で言えますか?』

小学校で習った言葉 さか上がりを英語で言えますか?

小学校で習った言葉 さか上がりを英語で言えますか?

常々、日本人の9割に英語はいらないと言ってきた。9割の国民は数年に1回行くかどうかの海外旅行以外で英語を使う機会はない。自分自身、12年前にマイクロソフトを退職したあとは、海外への観光旅行以外で英語を使ったことはない。英語が必要なのは都心のホテルマン、外資系社員の一部、商社マンやメーカーの海外担当者などじつはごく一部である。これに留学経験者や英語教師を加えても1割の1300万人に達しないはずだ。

もし、日本人の10人に1人が英語を話すことができるならば、小学生や高齢者、地方公務員や自衛官、土木建築作業員やコンビニ店員、新聞記者や銀行員、主婦や英語以外の学校教師も10人に1人は英語がペラペラということになる。じっさいはそのようなことはない。このような内需系の職業につく人々が職業的に英語を使う機会はほとんどない。そこで彼らを除外してみると、すくなくとも残りの日本人の3人に1人は英語がペラペラでなければ、日本人の1割が英語を話せるということにはならないなずなのだ。じつのところ日本人の1割が英語を話すことすら非現実的なのだ。

それでもなお、英語を話したい人は学校の授業以外に2000時間ほど英語に接すると、いつのまにか聞いて話せるようになるはずだ。このことは多くの外資系経験者や留学経験者が感覚的に理解しているはず。ある日突然話せるようになるのだ。どの国でも3歳児になると文法も教えられていないのにそれなりの母国語を話せるようになる。この乳児期に言語に接しているのは3000時間ほどだ。いっぽうで、中学・高校の英語の授業は合計900時間ほどでしかない。つまり学習時間が圧倒的に少ないのだ。もし、英語を勉強するならば、この追加の2000時間で何をするかが重要なのだ。

研究者や専門家は、その分野の論文を読み、学会で揉まれているうちに英語が上手くなるはずだ。いっぽうで一般人はまさに一般的なことを話したいはずだ。それには学校で教えてくれる語彙数が圧倒的に少ないのである。発音もましてや文法もあとまわしで良い。しかし、単語を知らないとじつは非常に厄介なのだ。それでは、以下の単語を知っているかどうかを試してみよう。

宿題 日直 避難訓練 土足禁止 分子と分母
四捨五入 ひし形 アルカリ性 肉食動物
雪崩 立候補 けんすい 画鋲 ト音記号

いくつ回答できたであろうか。これらはすべて小学校でつかう日本語である。じつは日本人のほとんどがこの程度の単語を知らないのだ。それこそが問題だ。ましてや水虫、口内炎、腱鞘炎などの日常的な病気、樹木や花の名前、英語(中国語)表記の中国の政治家の名前、土木建築・編集用語などの職業用語などまったくお手上げなのである。とりあえず、気を取り直して小学生の言葉から勉強しようと思うのならば、本書が最適である。なんと500円。お買い得だ。ちなみに「さなぎ」はpupa、「えら」はgill、「幼虫」はlarvaというのだそうだ。知らなかった。

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日本人の9割に英語はいらない

日本人の9割に英語はいらない

『邪悪な植物』

邪悪な植物―リンカーンの母殺し!植物のさまざまな蛮行

邪悪な植物―リンカーンの母殺し!植物のさまざまな蛮行

文庫を一回り大きくし、紙質をザラ紙にしたような装丁の本だ。出版社は『週刊朝日』で話題となった朝日新聞出版社ではなく朝日出版社。案外知られていないのだが、朝日出版社朝日新聞とは一切関係がない。社名は創業者が岡山朝日高校の出身者であることに由来するという。三菱鉛筆三菱グループとなんら関係ないのと同様である。橋下市長が逆上、混同してツイッター朝日出版社を名指しして批判していたが、とんだとばっちりというものだ。損害賠償請求訴訟でも起こして知名度を上げるということもできたはずだが、朝日出版社ツイッターで当社は違いますと告知しただけだった。じつに奥ゆかしいのである。朝日出版社は1975年に思想月刊誌『エピステーメー』を発行していたし、1990年代には日本初のヘアヌード写真集、樋口可南子の『water fruit』や宮沢りえの『Santa Fe』を出版している。

さて、本書は『邪悪な虫』と姉妹本として同時に出版された。『邪悪な虫』など気持ち悪くて触れたくもないが、植物なら大丈夫。どんなに邪悪なんだろうとパラパラとメージをめくってみよう。最初に登場するのは「トリカブト」。この項目では「クラーレ」などの矢毒植物も取り上げられている。都会では邪悪な植物というよりも邪悪な人々が使う植物というべきかもしれない。

「コカノキ」はもちろんコカインを生産する植物だ。大昔にはコカ・コーラには微量のコカインが入っていたが、いまではコカインを抜いたコカノキの抽出物が入っているだけだ。それでも異様な感じがする。ちなみに「ペプノキ」という植物はない。ほかにも「ベラドンナ」、「麦角」、「大麻」、「ケシ」、「マンドレイク」など、本書では麻薬様植物のほとんどがカバーされている。

麻薬様ではない植物として「クズ」は異質だ。19世紀後半に日本からアメリカに持ち込まれたクズは土壌流出を食い止める植物として珍重された。しかし、いまでは全米で3万平方キロ近くがクズで覆われているという。クズは除草の対象になっているというのだ。同様に繁殖し過ぎて困る植物として水生の「ホテイアオイ」がある。

「ソテツ」の種子はペットが2,3粒食べただけでも死に至る可能性があるという。さらに、ソテツは筋萎縮性側索硬化症(ALS)の変異型の原因にもなりうるという。ソテツを食べてはいけないのだ。ヒッチコックの恐怖映画「鳥」ではカモメたちが異常行動をするのだが、その原因はエサのセグロイワシを汚染した有毒藻類の異常発生だったらしい。それが判明したのは映画から40年以上あとだったという。

というようなトリビアが図版とともに延々と続くわけで、このタイプの本が好きな人にとってはじつにヤバいわけである。とりわけトイレに置いておいて、1項目ずつ読んでみようという趣にはぴったりとあてはまるデサインだ。朝日出版社はそこを間違いなくピンポイントで狙ってきたに違いない。今年のトイレ本大賞の候補として推薦しておく次第。

『橋の形を読み解く』

橋の形を読み解く (GAIA BOOKS)

橋の形を読み解く (GAIA BOOKS)

橋マニアにとっては必携書である。判型は縦165mmX横133mm、文庫本をすこし大きくしたような本だ。ほぼ全ページフルカラーで、左ページに橋の写真、右ページにその構造などを示すイラストが配置されている。

第1章は導入部で「橋を理解する」。材料、様式、用途、技術者の順に橋の全体像を説明する章だ。第2章が本体で「ケーススタディ」である。桁橋の例として現代米国のチェサピーク・ベイ・ブリッジなど。アーチ橋としてローマ時代の水道橋、ポン・デュ・ガールなど。片持ち梁橋としてスコットランドフォース鉄道橋など。トラス橋、可動橋、吊橋、斜張橋を加えて、橋を7様式に分類し、67の橋が登場する。

橋を観賞するには「町と町をつなぐ、人と人をつなぐ、そして心と心をつなぐ」などという陳腐で予定調和的な意味論は不要だ。橋はただただ眺めてその美しさを堪能できる構築物なのだ。おなじ構築物でも建物はオフィスビルや住宅など目的がさまざまだ。時代によっても様式は変わり、観賞のしかたも異なる。

しかし、橋やダムは目的が単一であるがゆえに、設計者の美意識が表出してしまう。その構造はむき出しであり、力学が可視化されている。橋自体を軽量化するために装飾は最小に限られる。そこに橋を架けなかればならない理由が背後の風景に刻まれている。

見ているほうが恥ずかしくなるようなケバケバしい建物が林立している現代中国にあっても橋だけは別だ。重慶市の朝天門長江橋はアーチ橋。アーチ部分が例のごとく中国レッドに塗られてはいるものの、その姿は美しい。

ましてはセーヌ川にかかる可動橋ギュスターヴ・フローベル橋やギリシャ斜張橋リオン・アンティオン橋など素晴らしく美しい。たまにはため息をつきながら世界中の橋を眺めてみるのも良いかもしれない。

このブログについてのお断り

本ブログは2011年7月まではメインとして使っておりましたが、それ以降はHONZへの掲載を優先しております。したがって、HONZには掲載していても本ブログには掲載していない書評が存在いたします。また意見表明などはすべてFacebook上で行なっておりますので、今後とも本ブログに掲載することはありません。

『日本型リーダーはなぜ失敗するのか』

日本型リーダーはなぜ失敗するのか (文春新書)

日本型リーダーはなぜ失敗するのか (文春新書)

本書を読みながらまず思ったことは「おいおい、日本は太平洋戦争からまったく何も学んでいないじゃないか。」という一点だった。

もちろん、この歴史に学ばない日本については、様々な時局で指摘され続けていることは判っている。無責任きわまりない年金行政や、革新性を失い戦力を逐次投入し、衰亡する家電業界などがその代表例だろう。しかし、福島の原発事故とその事故処理を目にし、本書を読んだあとでは、この日本の体質は自らの身に迫る危機として感じることができるはずだ。

官僚の不正や大企業の非効率を非難するだけですむ時代はまだよかった。原発やいじめ問題など行政の怠慢による生命の危機や、大企業経営の失敗による大量失業などが迫ってくるいまこそ、日本人は腹を据えて、太平洋戦争から学ばなければならない。

この分野では野中郁次郎らによる『失敗の本質』という優れた先行書がある。ミッドウェー海戦やレイテ海戦など、日本軍の太平洋戦争での失敗の原因を追究する学際的な研究書だ。文庫版だけでも五十六万部も売れているという。『失敗の本質』が学者たちによる組織論的なアプローチをとっていたことに対し、本書はリーダーシップを論じている。『ノモンハンの夏』で山本七平賞、『昭和史』で毎日出版文化賞特別賞などを受賞した歴史作家の面目躍如だ。

たとえば、権限発揮もせず責任もとらないタイプとして、フィリピン防衛戦から敵前逃亡した富永恭次陸軍中将。権限発揮せず責任だけはとったタイプとして、ミッドウェイ海戦で大敗した南雲忠一海軍中将。権限発揮して責任とらないタイプとして、世界戦史上最も愚劣な作戦として有名なインパール作戦をひとり強行した牟田口廉也陸軍中将など、呆れるばかりの戦時リーダーがこれでもかと取り上げられるのだ。

本書の特徴は人物に目を向けたということだけではない。作家として実際にその人物たちに取材にいっていることだ。一説には三万二千人の戦死者(ほとんどが餓死者だった)を出したインパール作戦は、牟田口が参謀も全師団長も反対したにも関わらず強行し、作戦失敗後には師団長たちに責任を追わせて生き延びた。著者は戦後小石川に住んでいた、自国民に対する戦犯といってもよい牟田口を何度も取材に訪れている。

取材に向かったのは牟田口のような「悪者」ばかりではない。たとえば日本海軍最後の勝利となったルンガ沖海戦を指揮した田中頼三少将にも取材している。ルンガ沖海戦とはガダルカナル島に補給に向かった日本の水雷戦隊がアメリカの重巡洋艦隊を完全に撃破した戦いである。ちなみにハルゼイ提督をして「癪に触るほど立派な連中だった」と言わしめた田中は戦中であるにも関わらず左遷されている。

本書は戦史と人物を読者に投げつけるだけが目的ではない。現代に生きる企業経営者や政治家にとって、即効性のあるリーダー像も供する。すなわち

1.自分で決断

2.明確な目標を示す

3.権威を明らかに(我ここにあり)

4.情報の扱い

5.規格化された経験(成功体験)にと らわれない、

6.部下に最大限の任務遂行を求める。

というものだ。

さらに著者はこの理想的リーダー像を語るためには戦史から離れてみることも厭わない。本田宗一郎や倉敷レーヨンの大原總一郎などの名経営者との取材秘話も登場する。

じつは本書は著者の「日本近代史にみるリーダーシップ」という講演をまとめたものだ。そのため読者は講演独特の、話題が縦横無尽に駆け回る感覚と、受講者を意識したサービス精神、目をつむると鮮明に視覚化できる語り口を楽しむことができる。著者にとっては筆を持つことなく出来上がった本かもしれないが、本書に盛り込まれた内容は著者の六十年という作家人生のなかで蓄積されたエッセンスだから、講演会にいくための電車代や参加費を考えるとじつにお買い得なのである。著者も「私のたった一つの名講演(?)のネタが永久に失われた」とあとがきで嘆くほどだ。『失敗の本質』の五十六万部を超えることを期待したい。

(『文藝春秋』12月号「本の話」掲載)

『独裁体制から民主主義へ』

独裁体制から民主主義へ―権力に対抗するための教科書 (ちくま学芸文庫)

独裁体制から民主主義へ―権力に対抗するための教科書 (ちくま学芸文庫)

本書は非暴力闘争の研究家であるジーンシャープ博士の代表的著作である。初版は1993年に英語とビルマ語で出版された。現在ミャンマービルマ)では民主化が進んでいるが、軍事政権下の2005年時点では本書を所持しているだけでも禁錮7年の刑に処せられた。本書の影響力はアジアに限らない。2000年のユーゴスラビアの青年運動「オトポール!」はミロシェビッチ政権を倒したが、その「オトポール!」は本書を底本に組織化された運動だった。

チュニジアジャスミン革命からはじまった「アラブの春」運動も本書から非常に強い影響を受けている。いや、むしろ本書がなければ「アラブの春」運動は成功していなかった可能性が高い。「アラブの春」運動ではFacebookTwitterの有用性が確認されたが、非暴力運動・テーマカラーの設定・主張の英語表記・有効だったデモとピケなど運動の根幹部分については、本書の指導なしでは起こりえなかったのである。本書が「権力に対抗するための教科書」と言われる所以である。

本書は2008年の時点でフランス語やスペイン語はもちろん、エチオピアのアムハラ語、アゼルバイジャンのアゼル語、モルディブディヴェヒ語など28の言語に翻訳されウェブサイト上で公開されている。つまり、本書は地球規模でのパブリックドメインの著作なのだ。残念ながら日本語に完全翻訳されたサイトは見当たらない。いつ日本語で無料公開されるかもしれないパブリックドメイン著作をあえて出版した筑摩書房の英断には敬意を評したい。本年もっとも優れた出版企画だと思う。

本書は125ページあまりのテキスト全10章と「非暴力行動198の方法」という行動リストで構成されている。

第1章 独裁体制に直面することの現実
第2章 交渉に潜む危険性
第3章 政治的な力は何に由来するか?
第4章 独裁政権にも弱みがある
第5章 力を行使する
第6章 戦略計画の必要性
第7章 戦略を立案する
第8章 政治的抵抗を応用する
第9章 独裁体制を崩壊させる
第10章 永続する民主主義のための基礎作り

本書の付録でもあり、本体でもある「非暴力行動198の方法」からいくつかを抜き出してみよう
#16 ピケを張る
#18 旗や象徴的な色を掲げる
#31 役人に”付きまとう”
#35 ユーモラスな寸劇やいたずらを行う
#57 セックス・ストライキを行う(好戦的な夫にたいして、妻たちがセックスを拒否し続けること)
#69 集団失踪する
#86 預貯金を引き出す
#107 細分ストライキを起こす(職場から一人ずつ去っていく)
#136 偽装的な不服従を行う
#159 断食する
#173 非暴力占拠をする
#194 秘密警察の身分を暴く

現在、独裁体制下にある国は中東などに限らない。中華人民共和国北朝鮮ももちろん一党独裁下にある。北朝鮮人民はもちろんだが、中国の農民たちなどが民族色でもあり共産党のシンボルカラーでもある「赤」から脱して他のシンボルカラーを使うようになったとき、中国は民主化へと進みはじめるのかもしれない。日本は尖閣問題や経済問題に取り組むだけでなく、中国人民のためにも本書の価値を再認識して利用する必要があるのではないか。そのためにも、われわれ本読みたちがまず手にとって評価するべきであろう。ちなみに本書は中国語簡体字にも翻訳されている。中国国内ではネット上でアクセスすることができるのであろうか。