『地図で読む未来世界』

2033年 地図で読む未来世界

2033年 地図で読む未来世界

著者のヴィルジニー・レッソンは国境なき医師団の理事も務めている地政学者だ。フランス人女性である。これまで著書は2007年に草思社から『地図で読む世界情勢』が、2009年に河出書房新社から『地図で読む世界情勢―衝撃の未来』が、それぞれ2部構成で出版されている。この4冊ともに世界地図をいろいろな方法で色分けをして世界情勢を説明するものである。

草思社版の第1部は「アメリカ大陸、世界覇権への道」「中東はいかにして世界の火種になったか」「アジアをいかに読み解くかの5章。第2部は「戦争の論理」「持続不可能な発展」の2章。どの章もじつに興味深いのだが、たとえば第2部のトルコの巨大ダムというパートなどはまさに目から鱗、衝撃的だ。トルコはティグリス・ユーフラテス川に22個のダムと19の水力発電所を建設している。結果的にたとえばシリアのユーフラテス川の流量は40%減少する。イラクも同様だ。そしてトルコの水資源開発はまさにクルド人居住地区のど真ん中で行われているのだ。あらたな火種が生まれつつあるという。この2冊はおススメだ。

河出書房新社版の第1部は「拡大している世界」「広がる不平等」「危険になる世界」など7章。第2部は「新しい冷戦の脅威」「世界の標的アフリカ」「宗教への誤解」など6章。この2冊は草思社版の補足という感じであろうか。とはいえ、地図で読むと意外にもエイズが制圧されていないことなどに驚く。中国でHIVに感染している人は1000万人。雲南省四川省では麻薬注射由来、河南省では貧困ゆえの売血由来などで感染者が多いという。

本書『地図で読む未来世界』は上記の4冊とはまったくことなるアプローチをとる。単に地図を色分けしたのではなく、さまざまな方法で「人口」「移民」「都市化」「食糧・農業」「水」「過剰人口」「エネルギー」「枯渇」「気候」について説明を試みる。使っている色はシックで美しく、いままでに見たこともない工夫を凝らしたグラフは、プレゼン資料作りのテンプレートとしても使える。マーケッターを自認する人は是非、書店で確かめてほしい。

たとえば中国における男女比の不均衡については時系列円グラフを使う。3時に1960年、9時に2015年を置き、中心からの長さが余った男の数だ。余った男はアンモナイトのような形でどんどん増えていく。中心は黄色、外側に行くにつれオレンジ色に変化する。余った男のリビドーはどんどん高まり2020年あたりでは爆発しそうだ。なにしろ2020年には5500万人ちかい男があぶれるのである。隣国の男としては背筋が寒くなる。

移民の未来では長方形のグラフを使う。どの地域からどの地域に移民しているかと一目で理解することができる。左側線は排出地域、右側線は流入地域をしめし、上から北米、欧州、アジア、アフリカに分けられる。左から右へ流れる色の帯は移民の流れをあらわしているのだ。たとえばアジアからは全世界の移民の36.1%が排出し、じつはその多くがアジアに流入、残りもアメリカよりも欧州への流入が多いことが一発でわかる。使っている色は北米は赤、欧州はオレンジ、アジアは黄緑、アフリカは緑だ。白人は赤、アジア人は黄色、アフリカ人は茶というようなどこか人種差別的で旧態依然の表現とは一線を画す。このグラフを拡大して額にでもいれると現代アート作品になりえる仕上がりだ。

「多くの自然災害に直面するアジア」というページはまさに衝撃的だ。東西は日本からイランまで、南北はモンゴルからインドネシアまでのアジアの地図上に、自然災害による死亡リスクがリスクに応じて黄色・オレンジ・赤でマッピングされている。この場合の死亡リスクとはサイクロン、地震、洪水、地滑りなどだ。バングラデシュや北京近郊は真っ赤である。カリマンタン島を覗くインドネシアもかなり赤い。日本は全体的にオレンジである。

このたぐいの本は文章では説明が難しいなあ、本書を紹介するサイトを見ていただいたほうが手っ取り早いかもしれない。このサイトだけでも一見の価値があるはずだ。