壽初春大歌舞伎・昼の部 2012年
毎年1月は「松の内」までに芝居見物をするのがわが家のきまりだ。ちなみに松の内とは1月15日までだ。地方によっては1月7日までなのだそうだが、それでは短すぎる。本日は新橋演舞場2日目である。最初は魁春と芝雀の舞踊「相生獅子」。二人とも淡々と仕事をしているという感じ。まったくおめでたい感じがしない。晴れ着を着こんできた御婦人たちからの溜息などもない。どこぞの花街にあんな無粋な年増がいたなあと思い出せてくれる舞台だった。
お次は「金閣寺」。そもそもこの狂言は物語がテキトーなのにもかかわらず長い。前半でしばし飽きる。とはいえ、菊之助の雪姫を見にきたのだからガマンするしかない。しかし、期待していたその雪姫が見事に大きかった。とりわけ囚われの夫、直信と会うまでの雪姫がただただ偉丈夫に見えて困った。それ以降は上手に雪姫をこなしている印象なのだが、感情移入するほどのことでもない。雪姫が去ってからの後半はさらに飽きる。
最後は「加賀鳶」。物語にまったく関係のない序幕では、役者が威勢よく勢ぞろいするはずなのだが、さほど威勢よくない。淡々と「つらね」を間違いないようにこなすのが精いっぱい。序幕最後には菊五郎が一党を率いて去っていくのだが、これがじつにリアリティがあった面白かった。ともかく、この舞台から引き下がりたいという一心と、実際にも菊五郎が統領として菊五郎劇団を率いているという現実が重なっておもわず微笑んでしまった。
その後の2幕目も3幕目も大詰めもサクサク進んで、とりたててスゴイということもない。菊十郎扮する家主がまだまったく台詞を覚えていない。本人には壁の向こうにいるプロンプタの声が聞こえないのか、しどろもどろである。9列目に座っていたのだが、プロンプタの声のほうが良く聞こえるほどだ。明日からは黒子のプロンプタを隣に座らせるべきであろう。このままでは、まるで幼稚園の学芸会である。
吉右衛門も出ていたはずなのだが、あまり記憶にない。ともかく番組が悪すぎる。お正月は菊五郎劇団が国立劇場で発掘作を上演するという「伝統」を残さないと、結局松竹は損をすることになるであろう。音羽屋ファンが1年間でも歌舞伎離れでもしたら困るのは松竹だ。1月の東京の観客はテキトーにおめでたそうな演目を並べられても見抜いてしまうかもしれない。