『For Everest』

For Everest ちょっと世界のてっぺんまで

For Everest ちょっと世界のてっぺんまで

8月4日付けで成毛眞ブログに「世界遺産WOWOWと『エベレスト』と3冊の本」という記事を書いた。今年のエベレスト登山シーズンでは、TBSの「世界遺産」とWOWOWの「ノンフィクションW」の取材班が同時にベースキャンプにいたということをテレビで知り、そこから3冊の本を紹介するという記事だった。

http://d.hatena.ne.jp/founder/20110804/1312424530

ところが、その後NHKのグレートサミット「エベレスト」を見てさらに驚いた。NHKの取材班もそこにいたのだ。しかも、NHKのディレクターとカメラマンの5人が登頂に成功している。大型ハイビジョンカメラを頂上に担ぎ上げての撮影だから、美しくないわけがない。エベレストファンにとっては必見の番組だ。

と、ここまでならわざわざ記事を追加する必要はない。本書『For Everest』を読んでさらに驚いたのだ。なんと今年の5月にはTBS隊、WOWOWが取材対象とした近藤隊、NHK「グレートサミッツ」隊、野口健隊と著者が所属するHIMEX隊などものすごい数の日本人が頂上を目指していたのだ。しかも、すでに3本の番組がつくられ、本も1冊出版されている。

ところで著者の石川直樹氏は1977年生まれの写真家だ。23歳で北極から南極へスキー、自転車、カヤック、徒歩で横断する旅行を達成し、その年には七大陸最高峰登頂を世界最年少(当時)で達成している。本書を読んでわかるとおり、文章もうまいし、人類学や民俗学などにも見識がある。7月31日に放送されたNHKの「日曜美術館」のテーマはアルプスを描きつづけた画家セガンティーニだったのだが、この番組でのコメントの質は一緒に出演していた美術史家を凌ぐものだった。まさに文武両道で、ボクがいま一番注目している若手アーティストだ。

じつは本書は出版社リトルモアのホームページ上で読むことができる。本年1月18日から5月26日までの著者の日誌をまとめたものだからだ。本書を買う前に一読してみるのも良いかもしれない。

http://www.littlemore.co.jp/foreverest/

ともあれ、我ながら本当にエベレスト好きだと思う。可能な限りのエベレスト本やテレビ番組などを見ている。いまでは、何もみないでカトマンズから頂上までのルートを書くことができる。エベレストが世界一高い山だからという理由だけではない。むしろ、エベレストでの人間ドラマが興味深いのだ。

著者も「あとがき」に相当するページで「エベレストは人間を寄せ付けない孤高の山ではない。人間を寄せ付けないがゆえに(人を)惹きつけてしまう生臭い山なのだ。」と言っている。エベレストはとてつもないロッククライミングのテクニックが必要なわけではないらしい。登頂ルートにはガイドロープも張ってあり、自力でルートを切り開く必要もないらしい。しかし、8848メートルというその高さが、人間の到達できる限界であるため、ほかと一線を画した魅力的な山なのだ。