世界遺産とWOWOWと「エベレスト」と3冊の本

空へ―エヴェレストの悲劇はなぜ起きたか (文春文庫)

空へ―エヴェレストの悲劇はなぜ起きたか (文春文庫)

ナショナルジオグラフィック エベレスト (National Geographic Society)

ナショナルジオグラフィック エベレスト (National Geographic Society)

七つの最高峰

七つの最高峰

Seven Summits

Seven Summits

今年の5月13日に登山家の尾崎隆さんがエベレストの頂上付近で亡くなった。尾崎さんは1996年にミャンマー最高峰カカボラジ山に初登頂したことで、第1回「植村直己冒険賞」を受賞しているほどの超ベテランだった。享年58歳。

7月24日と7月31日のTBS「THE 世界遺産」―エベレストを含むサガルマータ国立公園―の回を見て驚いた。尾崎さんはこの番組に協力する形でカメラ片手に登山し、頂上付近で亡くなっていたのだ。番組では亡くなる直前の尾崎さんが撮影した美しい映像が使われている。このことはTBSも含めてあまり報道されていないようだ。8000メートル級の登山など、完全な自己責任の世界であるから、TBSには非はないだろう。

ここまでであれば、わざわざ本ブログに書くことではない。本当に驚いたのはWOWOWが7月25日と8月1日に放送したノンフィクションW「エベレスト、登れます。〜一般登山者とカリスマガイド 究極の挑戦!」をみたときだ。山岳ガイドの近藤謙司氏が35歳のOLと67歳の医師の一般登山者を頂上へと導くドキュメントだった。この近藤隊は亡くなった尾崎さんとベースキャンプでたまたま一緒だったらしい。そして、訃報を知る。その近藤隊のシェルパ達がお世話になった尾崎さんの遺体を回収するために、危険を知りながら8500メートル地点まで命がけで登っていたのだ。

エベレストではこれと非常に似た事故が過去にあった。15年前の1996年5月、日本人の難波康子さんをふくむ12人の死者を出す遭難事故が発生したのだ。このときには山岳ガイドが主催する商業的登山だったことに批判が集中した。この時の顛末を生き残った参加者でジャーナリストが書いたのが『空へ』である。

さらにこの時にはIMAX映画の撮影隊も来ていた。この撮影隊が事故を記録し、書籍化したのがナショナルジオグラフィック社から刊行されていた大型本『エベレスト―非情の最高峰』だ。非常に美しい写真で、エベレストという非情の山を描き出している。非情の山というには理由がある、wikipediaによれば登頂挑戦者の5%が死亡するというのだ。

5月はモンスーンの関係でヒマラヤ登山にはベストシーズンだという。エベレスト登山は有力登山家だけでなく、いまでは一般登山者、テレビ・映画クルー、ジャーナリストにとっても魅力的な目標である。そのため、事故も意図せず互いに記録することになるようだ。そのため、2つの番組に亡くなる直前の登山家の姿が映っているというわけだ。

とはいえ『空へ』も『エベレスト―非情の最高』も絶版である。アマゾン・レビューを読んでいただければわかるように、とりわけ『空へ』は評価が高い本だった。ボクがさまざまな本を新刊で買い込む理由でもある。読めなくなってしまうのだ。冒頭のテレビ番組のほうはWOWOWが8月中に再放送を行うようだ。

ところで、エベレスト登山に関しては『七つの最高峰』という本もおすすめだ。7大大陸すべての最高峰に人類で初めて挑んだのは、2人の50歳を超えた有名ビジネスマンだったのだ。そのうちのひとりディック・バスが1985年に人類初の登頂者となった。もうひとりはなんとウォルト・ディズニーのCOO、フランク・ウェルズだった。かれらは山岳ガイドの手をかりて偉業を成し遂げたのだった。驚くことにこの挑戦を始める前のウェルズは数100メートルの登山経験すらなかったのだ。

じつはこの『七つの最高峰』も絶版である。翻訳品質が非情に悪かったのが絶版が早まった理由の一つかもしれない。原書を読める方はそちらをお勧めする。アメリカン・ドリームというのはかくあるべしという楽しい本だ。

北米大陸最高峰:デナリ(マッキンリー)6194m
南米大陸最高峰:アコンカグア 6960m
欧州大陸最高峰:エルブルース 5642m
アジア大陸最高峰:チョモランマ(エベレスト)8848m
アフリカ大陸最高峰:キリマンジャロ 5895m
オーストラリア大陸最高峰:コシウスコ 2230m
南極大陸最高峰:ヴィンソン・マッシーフ 5140m