『地図で読む戦争の時代』 産経新聞 5月7日号 書評倶楽部掲載

地図で読む戦争の時代

地図で読む戦争の時代

全国各地の図書館で古地図を閲覧する人が増えているという。今回の地震による液状化が内陸にまでおよんだため、自宅が建つ土地の過去を知る必要がでてきたからだ。百年前に沼だったようなところが液状化しやすいらしい。

古地図は饒舌に過去を語り、現在の道しるべとなる。本書は戦争前後の地図を丹念に比較することで、じつに興味深い歴史の断面を抽出することに成功した。

第二次世界大戦では、今回の大震災を凌駕するほどの瓦礫が各国で発生した。ベルリンには「瓦礫山」と名付けられた、標高九〇メートルの小山が作られた。日本では八重洲前の外堀に瓦礫が埋められ、外堀通りが作られた。

被害がなかった京都も戦争の影響をまぬかれてはいない。空襲による延焼を防ぐため、大通り沿いの住宅が強制疎開させられたという。現在の御池通りの上にはびっしりと家屋が建っていたのである。

いっぽう、国土地理院北方領土の地図を販売しているのだが、現場で測量ができないため、大正十一年の仮製図に衛星写真のデータを当てはめて作成しているという。そのため学校や役場の名前は大正時代のまま「冷凍保存」されているというのだ。

ところで、横浜市北部にあった三十万坪の陸軍兵器補給廠は昭和四十年、牧場も併設した自然公園「こどもの国」として開園した。全国から寄せられた今上天皇へのご結婚祝いを、お二人がこどもたちのために使ってほしいと望まれ、この施設が作られた。