團菊祭・夜の部


歌舞伎座建替えまでのロングラン巡業はじまりの月である。これからの3年間、役者はもちろん大変だが、見るほうだって大変だ。大阪で演られると電車代と宿代をいれて、普段の倍以上の物入りである。京都で演られた日には、ついついお茶屋やら線香代やらが加わるのでさらに大変である。

大阪団菊祭「夜の部」は「十種香」からだ。じつのところ唯一感心したのは萬太郎だった。元気一杯、「ご注進」を演じていた。殿さまに命じられ、血気にはやって、わけも分からず飛び出す若武者を演じ切っていた。

肝腎の八重垣姫、勝頼、濡衣はどこかバラバラの印象。それぞれ役作りに工夫は凝らしているのだろうが、それがひとつになっていない感じである。竹本は喜太夫。語るというより、唄ってしまうため、さらに芝居にのめり込めない。4月千秋楽まで大変だったんだからしょうがないよね、と思わせてしまう舞台だった。

お次は菊之助の「京人形」だ。お相手は三津五郎である。良くないわけがない。いやはや綺麗である。粋である。さすがに常磐津一巴太夫は少しお疲れのご様子。

待ってました「髪結新三」。ここではすべてが噛み合った。新三の菊五郎時蔵の忠七、團十郎の源七が役どおりに堅く演じてる印象だ。その中で三津五郎の大家長兵衛がじつに楽しかった。きっちりと古典を演じることで、深いおかしみを演出する菊五郎劇団のトリックスターの面目躍如だ。

松竹座は道頓堀の端にある。個人的には見るもおぞましい3D蟹系看板街のど真ん中だ。とはいえ、さすが「食いだおれ」の大阪である。100メートル先にある「今井」の観劇弁当はじつに旨かった。豆ご飯である。