『ライフ=ワークス=プロジェクト』 NODE No.10 書評

ライフ=ワークス=プロジェクト―クリストとジャンヌ=クロード

ライフ=ワークス=プロジェクト―クリストとジャンヌ=クロード


クリストとジャンヌ=クロードの作品のなかで、1985年の「包まれたポン・ヌフ」と1995年の「包まれたライヒスターク」だけは観てみたかった。

2005年、ニューヨークのセントラルパークで、彼らが7500本あまりのオレンジ色のゲートを建てた映像は観ているのだが、この2つの作品のように歴史的建造物をすっぽり包むというような強いインパクトは感じなかった。

新しい橋という意味の「ポン・ヌフ」はパリ最古の橋である。アンリ3世時代に起工され1606世に完成した。二人はこの実在する橋を4万平方メートルあまりのポリアミド合成繊維で包んでしまったのだ。展示は2週間におよび、300万人が見物に来たという。許可を与えたのはのちに大統領になるジャック・シラク市長だった。

いっぽうのライヒスタークはベルリンにある旧帝国国会議事堂であり、現在もドイツ連邦議会が置かれている。彼らはこの巨大な建物を10万平方メートルのポリプロピレン製の布で覆い隠した。このときも半月の展示だったが、500万人が訪れる巨大イベントになった。費用の1300万ドルあまりはクリストとジャンヌ=クロードが個人で負担した。

すでに作品は映像だけを残して消え去ったのだが、間違いなく美術史に刻まれることになろう。本書はその稀有な作家とともに時間を刻んできた柳正彦の手による写真集でもあり、彼独自の著作でもある。

そのため作品解説を目的とした美術書とことなり、巨大な作品を作り上げるためのロジスティックスや所有者などとの交渉過程まで丁寧に書かれているのが特徴だ。事実、本書において2つの作品には、それぞれ1975―85、1971−95と製作年が付されている。2週間の展示のために費やした主な製作期間、すなわち交渉期間を含んでいるからだ。

ところで、クリストとジャンヌ=クロードはC.V.J社という会社を所有している。この会社がクリストの生み出すドローイングやオブジェを、コレクターや美術館に売却することですべての巨大アートの費用をねん出しているのだという。

もちろん、美術館や個人住居に展示することができる、通常サイズのアートを生み出す能力があるからこそのことだが、同時にその価値を担保するために巨大アートの存在があるのだと思う。

あたかも、祇園祭と京都のような関係だ。巨大な文化的・芸術的イベントと付帯ビジネスの関係だ。個人の趣味や嗜好が細分化するなかで、一度に多くの人を束ねることができるのは、もはや文化と芸術の分野しかない。