御名残四月大歌舞伎・第一部


「御名残木挽闇爭」はキラ星の花形たちのせり上がりで始まった。真ん中に未来の団菊たる海老蔵菊之助松緑染五郎、孝太郎、勘太郎七之助獅童らがズラッと並んで、下手に親世代の時蔵。舞台全体が眩しい。途中から三津五郎芝雀が加わるのだが、花形の光彩を跳ね返すことができなかった。それほどに花形豪華な舞台だった。勘太郎が堂々としてこの舞台では随一だと思った。当たり前だが時蔵は完全に別格であり、一対花形全員で時蔵が勝ってしまうのを抑えていた印象。新歌舞伎座が完成する3年後のこけら落としには、同じメンバーで「対面」をやるつもりではないのか。是非見て見たい。

今回は「熊谷陣屋」のあと疲れ果ててしまい、「鏡獅子」を見ないで帰ってしまおうかと思ってしまった。吉右衛門藤十郎がとんでもないのだ。不義をしてまで一緒になった直実と相模の16年間が見事に表現されている。愛しあった16年前、16年間一緒に育てた息子、そして息子の身代わり死。吉右衛門のひっこみでの「16年は一昔、夢だ夢だ」の意味がはじめてわかった。というよりもはじめてこの狂言ががわかったような気がする。富十郎梅玉も素晴らしいのだが、吉右衛門の引っ込みで何もかもが吹っ飛んでいった。これが自分が死ぬまでに見ることができる、ベストの熊谷陣屋かもしれないと思ってしまい感極まった。記録によるとこの20年間で藤十郎は過去に1回しか相模を演じていない。先月の文字通り神様仁左衛門様と今月の吉右衛門直実。歌舞伎的には良き時代に生きているという実感がある。

カツ弁当を食べてから「鏡獅子」。勘太郎七之助ともにまだまだ若いな、という感じが最近まであったのだが、今回は違った。二人とも若い力を漲らせているのだ。成長したというよりも、ここまでやっても良いのかと吹っ切れた印象。その荒馬になった息子たちを勘三郎が御している。2頭立ての馬車に乗る勘三郎だ。勘三郎が幸せそうで、それが嬉しかった。

まだ第2部、第3部を見ていないのだが、来月はどうなってしまうのだろう。今月は役者も観客も大向うも気が入っていて素晴らしい。一気に萎んでしまうのではないか。たいそう心配なので、来月は大阪公演を観に行くことにした。