Booker Ervin / That's It

That's It

That's It

HMVのニュースレターに、「5CD Original Album Series」 というBox Set があったので、ちょっと気が向いて George Benson のセットを購入してみた。編集ものではなく、タイトル通り5枚のLPアルバムをセットにしたもので、5枚で2,000円、1枚400円勘定のお徳盤であ る。George Benson は、私がJAZZ聴きになる前、軟弱青春時代を送っていた頃によく聴いていたので、このセットの値段の安さもあってつい衝動買いしてしまったのだ。

70年代中期から80年代初めにかけて、JAZZ といえばクロスオーバー(今でいうFusion、Adult Contemporary)だった。文芸の世界では、村上龍の「限りなく透明に近いブルー」に始まって、田中康夫の「なんとなくクリスタル」がもてはやされた頃。日本全体がバブルに入りつつあった時代である。いい、悪いはさておき、私が過ごした青春 時代は、そんな時代だった。軟弱な私でさえ、その当時の「軽薄感」は感じていた。

レコードがどんどん薄っぺらく安っぽくなり、どんどんCDに切り替わっていた。アメリカでは、まだレコードとCDとカセットテープが併発されていたのだ が、CDという規格を主導した日本では、特にCDに切り替わるスピードが早かったようだ。

JAZZ だけでなく、R&Bが、SOULが、どんどんPOPSの枠に括られていった。音楽が、質ではなく、ヒットしたかどうかだけで評価された。時代同様 に、音楽がどんどん軽薄化し、均一化していった。この時代、後世に残すべき音楽があったとは、私には思えない。最近の音楽シーンの方がよほどマシに思える。

いくらレコード好きな私でも、この頃のナンパな音楽までレコードに執着する気はない。音楽の質もさることながら、AD向け、CD向け、どっちつかずの音作 りのものが多く、レコードもCDも酷い録音ばかりだからだ。従って、あえてこの時代の音楽を聞きたいのであれば、できるだけ最近のリマスタリングCDで聴くことをお勧めしたい。私は、この時代の音楽についてはまったくオリジナル盤には固執しない。

上記の、「5CD Original Album Series」は、安物買いの銭失いになってしまった。BGMとしてさえ、もう2度と聞かないだろう。1枚400円に音の良さを求める方がどうかしている というご指摘ごもっとも。でも、いくら安物とはいえ、こういう「ものづくり」をしてはいけないと思う。

今回は Booker Ervin / That's It を紹介しよう。レーベルは Candid で、1961年の録音。ブリブリ、バリバリとブローしまくるテナーサックスプレイヤーは「ホンカー」と呼ばれている。ホンカーという言葉は和製ジャズ用語 かもしれない。英語だと、Tough Tenor, Texas Tenor ってな呼称が妥当なところか。野蛮、下品、田舎くさい、泥臭い、荒くれ・・・などなど、和訳すればあまりいいイメージにはならないが、ゴスペルや R&Bに近いJAZZは、やはりタフでなければ面白くない。

Booker Ervin もホンカーの一人ということになっている。JAZZを聴かないR&Bファンなどは、ErvinのことをR&Bの人と思っているかもしれな いが、私にしてみればやはりJAZZの人なのである。彼のプレイはそれほど単純明快なノリノリではなく、もうちょっと知的で陰鬱があるのだ。バーのカウン ターに一人座っている、もの憂げな女性(男性)を見かけた時のBGMにどうぞ。

(JHS-JAZZ 山田)