11月花形歌舞伎・夜の部


昨日は祝日。まだ3日目だから、あくまでもこの寸評は、陸上競技でいうところの向かい風参考記録だ。

今月の「三人吉三」は通し狂言である。「月も朧に白魚の〜」で有名な大川端の場から芝居は始まる。お嬢吉三は菊之助であるから安心して見ていられる。けっして弁天小僧ではない、きっちりとしたお嬢吉三だ。リアルなワルを感じることができる。お坊吉三の愛之助はもう必死だ。関西の人が江戸のワルを演じることの難しさがあるのかもしれない。おおむね吉右衛門風だが、初演だそうだから、仕方がないのかもしれない。松緑は前回と変わりがない。「松緑」だ。ワルは一切感じられない。リアルでいい人なんだろうなぁ。

二幕目は伝吉の歌六が良い。しかし、花形歌舞伎を見に行って、まさか歌六がもっとも良かったなどとはとても言えない。若手では手代十三郎の松也の声と口跡が素晴らしい。この人が辰之助でも文句はあるまい。久兵衛役の権一は素でお爺さんだ。多少台詞が怪しくても八百屋のお爺さんだということがわかればそれでよい。

三幕目は吉祥院の場だ。このへんから愛之助が良くなる。いやらしいのだが、背筋が立ったワルが出てくるのだ。この感じで大川端をやれば良いのだと思う。松緑は「墓地の場」で実の弟妹を殺してから仲間のところに戻るというきわどい役なのだが、あいかわらず「松緑」だ。裏の墓地の場で弟役と妹役を殺す芝居をしてきた役者、という風情なのだ。それはそれでよいのかもしれない。30年後が楽しみである。

大詰では雪がどんどん振ってくる。そこまでしなくてもと思われるほど大量に降ってくる。菊之助が梯子を登るために振袖をからげる所作が、とくに意図していないのだろうが色気たっぷりだ。清元は若手が多く、本日は延寿太夫は出演していない。竹本の三味線弾きが聞いたことのない「合いの手」を入れ続けていた。

紅葉狩は鬼揃いだ。つまり主人公亀治郎の侍女が鬼女が変身して出てくるのだ。前半は退屈だ。緊張感がない。中盤の菊之助はかなり戸惑っているように見受けられた。能仕立てと猿之助仕立ての場つなぎなのだから大変なのかもしれない。後半は長唄常磐津・竹本の三方掛け合い合奏による大スペクタクルなのだが、出てくるのはどう見ても鬼女ではない。マンドリルだ。檻の中を足を踏みならして駆け回り、最後には鉄格子にしがみついて、見物客を威嚇する猿だ。やかましいいだけで、見るに堪えない。

Mandrill

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