『同和と銀行』

同和と銀行 三菱東京UFJ“汚れ役”の黒い回顧録 (現代プレミアブック)

同和と銀行 三菱東京UFJ“汚れ役”の黒い回顧録 (現代プレミアブック)

バブル期の大阪裏面史を描いているのだから、タイトルも表紙もおどろおどろしい。主人公は巨漢の元暴力団構成員である。当然のことながら、許永中尾上縫田中森一など「いつもの」バブル紳士達は登場するのだが、本書はそれだけで終わらない。むしろダークサイドを利用していた銀行、自治体、政治家、芸能人などが実名と写真付きで引きずりだされているのだ。

主人公の小西邦彦は部落解放同盟大阪府連合会の元飛鳥支部長だ。大阪市の駐車場にまつわる業務上横領事件で有罪判決をうけ、上告中に病死している。語り手はその小西を顧客としていた三和銀行の岡野義市である。

まずは率直な感想を書こう。いやはや面白いのなんの。けっして取り上げられている人物や団体、事件や背景を面白いといっているのではない。「本」そのものが面白いのだ。著者は1行の無駄もなく、すばらしいスピードで、この書きにくいテーマを具体的に、ビジュアルに書き進める。

ボクはそもそもピカレスク・ロマン系ノンフィクションが好きだ。同じ著者の『許永中』やロバート・ホワイティングの『東京アンダーワールド』、(ボクはヤクザを肯定しないが)宮崎学の『近代ヤクザ肯定論』、(すこし時代も悪さもちがうが)佐野眞一の『甘粕正彦』など、まるで河竹黙阿弥の白波ものでも読むようにして手にとってきた。幕末の江戸、戦前の上海とバブルの大阪はボクにとっては、空想の世界でしかないのだが、なぜか甘くノスタルジックな匂いがするのだ。

ところで、全盛期の小西はまさに歩く治外法権と化していたらしい。警察もヤクザも、ましては銀行も企業も手を出せないでいた。にもかかわらず、本書を読み通すと彼がじつは被害者ではないかと思われてくる。被害者といってまずいのであれば、「社会」との共犯者である。

本書の中から「社会」との関連の一例をあげよう。昭和43年、大阪国税局長だった高木文雄は部落開放同盟傘下の大阪府企業連合会と「同和事業については課税しない」など7項目にわたる密約をしている。この取り決めについて、平成5年野中広務が蔵相だった藤井裕久に質問している。ちなみに高木文雄は大蔵次官から国鉄総裁になっている。

バブル終焉後、ダークサイドの帝王から引きずり下ろされた小西の葬儀には30人ほどしか参列しなかったという。夜中にヘリコプターが30億円の株式を運び入れるほどの取引をしていた小西の墓は1区画97万円か147万円の団地霊園にある。

本書のサブタイトルは「三菱東京UFJ”汚れ役”の黒い回顧録」だが、これはいささか三菱東京UFJにとって厳しすぎるかもしれない。合併前の三菱銀行東京銀行東海銀行三和銀行と同列に扱うのはいささか可哀想だ。

許永中 日本の闇を背負い続けた男

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