『森にすむヤマネの話』

森にすむヤマネの話 カメラ越しの30年

森にすむヤマネの話 カメラ越しの30年

ヤマネとは齧歯目ヤマネに属する1属1種の小動物だ。体重は鶏卵の半分くらいしかなく、ネズミとは違い尻尾には毛が生えていて、背中には黒の一本縞があるのが特徴だそうだ。天然記念物だ。本書はそのヤマネを撮りつづけて30年になる自然写真家のエッセイである。

本書をもってヤマネの生態を知るというものではない。むしろヤマネを撮り続ける著者の目から見た日本の山の物語だ。第1部は著者がヤマネに取り付かれてから、実際にヤマネを撮るまで。第2部はヤマネが住む森とそこに住む動物達、最後の第3部は野生動物の保護についてだ。けっしてエッセイのプロの手ではない。まったく聞いたこともないような薀蓄があるわけでものない。しかし、著者の温かい人となりの、ほっこりとしたお話がつづく。

毎年20回以上も山に入って、10回に1度ヤマネが撮れるかどうかだという。撮影に夢中になり転落してしまったり、高山植物の盗採者にであったり、キツネに化かされたりする。冒険写真家のような世界の秘境をまたにかけた活躍ではないのだが、自然相手の撮影は好きじゃなければできない仕事だとつくづく思う。

著者は19歳のときに長野県の山でアルバイトをはじめる。そして23歳のときにいわば山小屋に就職し、28歳のときに自然写真家として独立する。その間に出会った山小屋の主人や写真家などが著者の人生を大きく左右したようだ。自然との出会いと人との出会いの重要性をそれとなく語る著者は本当に幸せそうだ。

口絵は15ページにわたるヤマネのカラー写真だ。ふさふさの尻尾を丸めて寝ている姿などは、まさに森の妖精である。信じがたいほど可愛らしい動物だ。巻末の資料を読むと、山梨県清里には「やまねミュージアム」がある。本書にもでてくる「霧が峰自然保護センター」の自然体験プログラムも魅力的だ。1967年「書を捨てよ町にでよう」といったのは寺山修司だ。もう高度成長は望めない。「(たまには)書を捨てよ山にいこう」であろうか。