八月納涼大歌舞伎 第三部

「お国と五平」は谷崎潤一郎原作の劇だ。ボクの好きな「カ・ブ・キ」ではない。歌舞伎役者が得意のちょんまげかつらをかぶって、歌舞伎座で演じているだけの普通の演劇だ。だから、効果音なども録音されたものをスピーカーから流すことになる。

よほど「古い」歌舞伎が嫌いな人の演出としか考えられない。そこで「筋書き」を見てみると、演出家の福田逸が文を書いていた。旧かなづかいで書かれていて、ただただ無意味に読みにくい。この程度の人の演出なのかと、がっかりした。

勘太郎は谷崎をかなり読み込んでいるのかもしれない。中間役の勘太郎が後家のお国扇雀の草履擦れを手当てする手つきなどは完全に谷崎だ。ホントにいやらしく、「細雪」してるのだ。

扇雀の声がとても良い。今回の公演を通じてすっかり扇雀のファンになってしまった。いっぽう、三津五郎にはストーカーの狂気が感じられなかった。良い人すぎる。この役は海老さまでみてみたい。お国は亀治郎、中間は勘太郎がよい。ぜんぜん違う舞台になってそうだ。演出家もシェークスピア系じゃないほうが良いかもしれない。

八月公演の最後は勘三郎の「怪談乳房榎」だった。2時間強があっという間だ。イリュージョンとスペクタクルにつきる。これこそがボクの「カ・ブ・キ」である。子供のころに戻れるような演出こそがボクの好きな歌舞伎だ。竹本も適当に入って、全体的によい調子だ。盛り上がってくる。

勘三郎の早替りは仕掛けはなんとなく検討がついているのだが、驚異的に速い。本水をつかった立廻りは、本当に歌舞伎座なのかと思うほど迫力がある。目の前で勘三郎が溺れるのではないかと思ったほどだ。(たまたま2−26という滝に至近の席だった)(とはいえ、すこしオーバーか)

ともあれ、この狂言ひとつで八月納涼大歌舞伎は大成功だと思う。いろいろ文句もあったけど、あー本当に楽しかった、で終わった。恐るべし勘三郎。いやはや歌舞伎は面白い。