『「人工冬眠」への挑戦』
「人工冬眠」への挑戦―「命の一時停止」の医学応用 (ブルーバックス)
- 作者: 市瀬史
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2009/04/21
- メディア: 新書
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本書は最新の冬眠の生理学を丁寧に説明したうえで、医学への応用について展望を語る。対象となる読者は科学本愛読家やベンチャーキャピタリストだけでなく、現役の医師にとっても読みやすく最新の知識が得られることと思う。
まずリスの冬眠とクマの冬眠はかなり異なることが説明される。リスは「冬眠中」に「睡眠」を取るために2週間おきに起きるのだという。つまり「冬眠」=「睡眠」ではないのだ。一方、クマは冬眠中に出産し授乳もしているのだという。ヒトも冬眠していたかもしれないと著者はいう。何万年前のことではなく、18世紀のロシアの貧農は冬の半年間、一日の大半を暖炉近くで寝て暮らしていたというのだ。これだけでもかなり面白い。
冬眠中のクマは蓄えた脂肪を分解してエネルギーを取り出すと同時に700mlの水も取り出すのだという。さらに冬眠中のクマのコレステロール値とメタボ対策や、脂肪を分解したときに発生する有害物質のケトン体処理の話などが矢継ぎ早に続く。冬眠中のクマはタンパク質も窒素もカルシウムすらもリサイクルするのだという。これらを医学の現場に応用できれば革命的であることは間違いない。
最後に笑気ガスが麻酔薬だとすると、硫化水素は冬眠薬になるかもしれないと筆者はいう。あの「卵が腐った匂い」の元には臓器保護効果があり、心臓発作の緊急治療薬になりうるというのだ。脳梗塞や心筋梗塞に併発する虚血性再灌流障害の対策になるというのだ。そのメカニズムも実に面白い。ただし、1000ppmの硫化水素を吸入したら1呼吸で意識消失・呼吸停止するので実験はしてはいけない。ちなみに、匂いのある「おなら」に含まれる硫化水素は0.01ppm位であろうか。
人工的に作られた6キロ走ってても疲れない「スーパーミッキーマウス」(ヒトだと12000キロ走り続けたことになる・・・)やセイファーのゾンビ犬など日本語でググッても表示もされない最新情報が満載だ。これで860円は安い。第1章は無理やり導入用として付け加えた章だと思われるので、ここだけを立ち読みして買わなかった読者がいるかもしれない。