Billie Holiday / Ladylove

Billie's Blues

Billie's Blues

品行方正な堅物より、不埒だったり、支離滅裂だったりする方が魅力的に感じてしまうことがある。全ての音楽は、ある意味高尚で、ある意味低俗な芸術だと思うのだ。クラシックは高尚で品行方正なイメージがあるが、JAZZは低俗で破滅的なイメージがつきまとう。

JAZZといえば、昼より夜。それも夜中。男と女、大人の。理性的なやり取り、でも時には本能的に。酒。ウィスキーあたりのストレートをノーチェイサーで。あとは、ミュージシャンの必須アイテム(?)の麻薬さえあれば・・・あとは何もいらないし、残らない。得られるのは、ひと時の快楽のみ。どれも過ぎれば破滅するだけ。

不道徳、不健康極まりないが、そもそも生身の人間って享楽に溺れてしまいがち。猥褻で、無作法で、自由奔放、放埓放蕩、苦痛から逃れようとする。この自然な観念や感情が、JAZZ黄金期のパワーの源泉だったのかもしれない。言うまでもなく、けっしてお奨めしている訳ではない。

不世出の女性ジャズ・シンガーと呼ばれるビリー・ホリディは、15歳で娼婦となり、売春罪で投獄され、出所後にシンガーの道を歩みだした。麻薬とアルコール依存症から脱け出せないまま44歳で逝去してしまった。当時、麻薬とアルコールに溺れなかったミュージシャンなど皆無だったのかもしれない。マイルス・デイビスジョン・コルトレーンアート・ペッパーも、ビル・エヴァンスも、チェット・ベーカーも、みんな一時期そうだった。

麻薬を服用することによって得られるインプロビゼーションなど所詮はまやかしで、スポーツ選手のドーピングと同じことである。自己的な満足感と一時的な賞賛が得られたとしても、いつかは非難と社会的制裁を受けて破滅する。虚構の世界は砂上の楼閣に過ぎない。

今回は Billie Holiday / Ladylove を紹介しよう。録音は1954年、初のヨーロッパツアーで訪れた当時の西ドイツはケルンでのライブ。原盤はUnitedArtists。晩年の絶頂期の1シーンである。CDではいろいろなタイトルで出ているが、このカバー写真が使われているCDは、Billie's Blues というタイトル。ただただ、彼女の歌の情感に浸って欲しい。

(JHS-JAZZ 山田)