『間違いだらけのカタカナ英語』

英語を学ぶためというよりも、カタカナ英語周辺の知っておきたい常識や薀蓄を教えてくれる本だ。まずはスパムメールの「スパム」だ。この言葉がハムの缶詰の商標であることは知っていた。さらに「モンティ・パイソン」というイギリスの古いテレビ番組の中で、そのスパムが最低の食べ物として扱われていたことも知っていた。しかし、なぜその番組でスパムと叫んでいたのがバイキングだったのかは知らなかった。これで薀蓄がひとつ増えた。

日本語では繊細なという意味で使われる「デリカシー」は、英語では「珍味」や「ご馳走」の意味だ。同じく「delicate skin=デリケートな肌」は英語では「きめの細かい肌」という良い意味にとられてしまう。「ナイーブ」も真の意味を覚えておかなければいけない言葉だ。英語で「He is naive」といえば「彼は世間知らずだ」あるいは「彼は単純だ」という否定的な意味だ。このあたりの常識は英語を使う職業についている人にとっては必須であろう。

本書で取り上げられている「ア行」言葉だけを列挙してみよう。アーカイブアカウンタビリティアジェンダ、アライアンス、インキュベーターインセンティブ、インフラ、ウィンウィン、エグゼクティブ、エスカレーション、オプションの11語だ。つまり、ビジネスのカタカナ英語に限定していると考えてよい。通勤電車の中で数語ずつを読み切れるボリュームである。

本書には国立国語研究所の「外国語言い換え提案」「和製英語一覧」「英文略語表」もおまけでついている。「英語略号表」はともかく、残りの2つの表は案外役に立つ。「外国語言い換え表」は本来は作られた目的とは間逆にも使える。カタカナを使ってかっこよいプレゼンをするための参考になる。

ところで本書が取り扱う言葉のひとつに「lame duck」がある。もともとは任期満了に伴って、残りの任期を消化するだけの「死に体」の大統領などに対しても用いられる言葉だ。しかし、英語のレームダックは現在では「落伍者」「無能者」の意味で政治以外にも使われるようになっている。日本では与野党を問わず党首に対し、無差別の用いても意味は通じるようだ。この場合の訳語は「役立たず」であろうか。