壽初春大歌舞伎・夜の部

久しぶりに歌舞伎を堪能した。新春らしい晴々朗々とした番組だった。「曽我対面」はそもそも豪華な舞台なのだが、菊五郎幸四郎吉右衛門松緑菊之助染五郎などが勢ぞろいで最後に大見得を切るのだ。ワクワクドキドキである。物語は荒唐無稽なのだが、それゆえに役者だけを凝視することができる大歌舞伎である。3階席から最後の5分間だけを見るのも一興かもしれない。

鏡獅子は考太郎の長男千之助に驚いた。まだ8才だがうまいのなんの。申し訳ないが、主役であるべき勘三郎に目をやる暇がなかった。半世紀後には仁左衛門になるかもしれない人だけのことはある。その襲名公演を見ることは出来ないかもしれないと思ったら悲しくなるが、8才の役者に今年1年分の勇気をもらった気がする。本当に歌舞伎はすごい。

鰯売は勘三郎オンステージの喜劇だ。あはあはと笑っているうちに終わる。能天気に気分良く歌舞伎座をあとにさせる才能は勘三郎をおいて他にはいない。原作は割腹自殺した三島由紀夫だ。江戸の文化を信じられないほど深く理解して本は書かれている。勘三郎の鰯売りの僥倖を見て、新春の寿ぎをあらたにしながらも、若くして三島由紀夫を失ったことに悲しみを感じる。