壽初春大歌舞伎・昼の部


歌舞伎座さよなら公演の第一回目である。とはいえ、さよなら公演はこれから16ヶ月間続くのだから、商魂たくましいとはこのことだ。歌舞伎を見たことがない人も歌舞伎座に来てもらおうという魂胆がみえみえだ。それでも歌舞伎人口が増えるのはファンとしても嬉しいかぎりである。

さよなら公演は「祝初春三番叟」で幕を開けた。富十郎松緑菊之助梅玉だ。ボクにとっては大変嬉しい配役である。富十郎は十分。松緑もはつらつ。菊之助に元気がなかったのが気になった。

次の「俊寛」は好きな演目ではない。俊寛にまったく共感しないのだ。平清盛に崇敬されたれた僧俊寛がいきなり清盛を裏切り遠島される。しかし後日恩赦を伝えにくる上使には涙ながらに都に帰りたいと訴え、しまいにはその上使を殺してしまう。最後には1人島に残る俊寛に共感しようもない。しかも幸四郎俊寛は妙にリアリティを追求していて、歌舞伎というよりミュージカルのようなのだ。

十六夜清心」は菊五郎時蔵吉右衛門だ。菊五郎がすばらしい。梅枝が演じる寺小姓の金を奪い悪の道に入る、いわば人生の岐路を逡巡しながら選ぶさまを、見事に粋に演じる。相手役の梅枝も立派。正統派女形の系譜のなかで江戸の粋を感じた。幕末のデカダンスはいまの時代にぴったり合うと思う。延寿太夫清元栄三浄瑠璃にうっとりした。

玉三郎の「鷺娘」は昨年末の南座顔見世での「ぢいさんばあさん」や「紅葉狩」とはうってかわってくだんの玉三郎オンステージだ。とんでもなく美しいのだが、歌舞伎の舞踊とは異なる次元を感じる。歌舞伎を超越しているのであれば、歌舞伎公演とは別でもよいかもしれない。