週刊東洋経済3月2日号

週刊 東洋経済 2013年 3/2号 [雑誌]

週刊 東洋経済 2013年 3/2号 [雑誌]

週刊東洋経済3月2日号に『面白い本』から、著者本人がさらに10点を選び出すという趣旨の記事が掲載されました。どーんと豪華に見開き2ページ。この号の第1特集は「2030年 あなたの仕事がなくなる」だが、第2特集の「ヤンキー消費をつかまえろ」が秀逸。

斎藤環氏によれば金融緩和策もヤンキー的なアゲアゲのノリをうまくとらえている政策ということになる。言い得て妙。維新の会は「少年チャンピオン」で、自民党は「少年ジャンプ」だというのだが、こちらはさっぱり判らないw

日米英と民主党

バーナンキが安倍首相のリフレ政策を支持した。これはもちろんアベノミクスFRBの政策と合致しているからだが、日米は欧州経済への気配りと中国封じ込めを秤にかけ、結局はドルと円のデプリシエーション戦略を容認したという印象だ。日米はTPPも合わせて中国包囲網できっちりとパートナーシップを確認しはじめたといっても良いかもしれない。イングランド銀行も同様のコメントを出している。歴史的に日米英が握っている時は日本は絶好調だ。これからは多少の各国固有の利益を後回しにしても、日米英の共同利益を最大化し、同盟関係を強化することこそが重要になるかもしれない。

という環境下で、日銀総裁人事に選挙目当ての対立軸を作るためだけに民主党が反対したとしたら、参院選では手痛いしっぺ返しを受けるであろう。民主参院には知り合いもいるのだが、全員落選する可能性があると思う。その割には本人たちはその意識がないようで、さすが民主党というしかないのである。選挙至上主義と政策至上主義というマニアックな両極に走った歴史的泡沫政党として記憶されるであろう。

『ヒッグス粒子とはなにか』

正直に言おう。ヒッグス粒子をまったく理解できないのだ。子供のころからブルーバックスなどで素粒子論や宇宙論を読んできたから、クオークやビッグバンまではなんとか判ったような気でいたのだが、ヒッグス粒子については読んでも読んでもまったく理解できない。つまり、クオークもビッグバンもちゃんとは理解していなかったというわけだ。

それでは本書でヒッグス粒子を判ったかといえば、やはりまったく理解できない。ヒッグス機構とはゲージ対称性の自発的やぶれに関する理論などと説明されても、なにがなんだか判らない。ヒッグス粒子発見は世紀の出来事であり、それは出版界の期待の星だから、日本でもここ数ヶ月で10冊近い書籍やMOOKが出版されている。そのほとんどを手にとったが、ぜんぜん理解できない。

それは物理学者以外にとって共通のようで、本書にはイギリスの新聞ガーディアン紙が掲載したヒッグス粒子のいろいろな説明方法がしるされている。そのなかで秀逸なのは車のバックシートに座っている子どもに説明する方法だ。

「それはね、科学者たちがずっと探していた粒子なんだ。そのおじさんたちはね、それがないと宇宙がなくなってしまうって知っていたんだ。ほかの粒子に質量がなくなるからなんだ。それはほかの粒子がみんなずっと光の速度で飛び続けるからさ。光子みたいにね。お前がまだ ”どうして?” と聞いたらバーガーキングで止まってやらないからな。」

まさにそのとおり。そこまでは判るのである。しかし、子どもの次の質問「どうして?」の答えがいきなり「対称性の破れ」などになってしまうわけで、ここからチンプンカンプンになってしまうというわけだ。

とはいえ、ヒッグス粒子を探すプロジェクトはじつに壮大で、それを眺めているだけでも心楽しくなってしまう。人類はここまできたのかと、嬉しくなってしまうのだ。ヒッグス粒子を発見したとされるLHCという装置は、地下100メートル、円周27キロメートルのドーナツ型のトンネル内に設置されている。陽子を山手線ほどの円周をもつ装置内でぶっ飛ばし、光速近くまで加速する装置だ。

この中で1150億個の陽子はひとつのかたまりとなって毎秒1万回回転する。この1150億個の陽子のかたまりの重量は10億分の1グラムでしかない。しかし、加速されることで走行中の新幹線の運動エネルギーに匹敵する重さをもつことになるというのだ。

やがて互いに反対方向に回っていた2つの陽子のかたまりは検出器のなかで衝突する。この検出器の重量は7000トンあまり。原子よりも陽子よりも小さい粒子を検出するのは超巨大な実験設備である。

19世紀の普通の人にとって、電磁気学の研究などチンプンカンプンだったはずだ。しかし、電磁気学がなければ電気にたよる現代社会はまったく成立していない。電磁気学よりもっと理解しにくい20世紀の量子力学も同様で、それがなければ半導体が生まれずインターネットもスマフォも存在していない。ヒッグス粒子ダークマターなども同様、100年後の子孫たちであればぼんやりとでも理解しているかもしれない。

このレビューを書きながら、国際リニアコライダー計画の応援団をしていたことを思い出した。日本の誇りをかけてILCを誘致したいのだ。

『オリオン座はすでに消えている』

 

オリオン座はすでに消えている? (小学館101新書)

オリオン座はすでに消えている? (小学館101新書)

新刊超速レビューは発売から1ヶ月以内の本を対象としているのだが、本書の発売日は2012年12月8日だ。すっかりレビューを書くのを忘れていたのだ。いやあ、スマヌスマヌ。なにしろ本書が扱っている事件は640年前に起こっていたかもしれないのだ。2ヶ月の遅れなどまあいいではないか。しかも、この事件についてはどこかで書いたのだが、どの媒体だったかも忘れているのだ。これでいいのだ!

その事件とはオリオン座のα星ベテルギウスが爆発しているかもしれないという事件だ。ベテルギウスは地球から640光年の距離にある巨大な恒星である。われわれは室町時代のこの星を見ていることになる。この星の重さは太陽の20倍、太陽の重さは地球の33万倍だから、ベテルギウスは地球の660万倍の重さを持つことになる。あたりまえである。

この太陽の重さの20倍というところがじつはミソである。もちろんベテルギウスが信州味噌でできているということではない。太陽の8倍以上の重さの恒星が寿命を迎えると超新星となって爆発するのだ。そしてこの星は寿命を迎えている。爆発するとベテルギウスは満月の100倍の輝度で輝くようになる。ただし、月に比べて視直径が小さいのでギンギラギンの星という印象になるであろう。さりげなく見る必要がある。

いまから4億4千万年前に生物の大絶滅があった。これがオルドビス紀シルル紀の境目である。オウム貝三葉虫の時代から昆虫や陸上植物の時代に変化したのだ。この大絶滅の原因が超新星爆発だったと考えられている。もし、このときと同じ超新星爆発に地球が晒されたら人類は滅亡し、生き残りはオートボットディセプティコンだけになるかもしれない。

超新星爆発では極方向に超強烈なガンマ線ビームが放たれる。このガンマ線ビームにあたってしまったら人類は滅亡ということになるのだが、4億4千万年前の直撃とはちがい、今回のベテルギウスガンマ線ビームは地球から20度それているという。それゆえにわれわれはベテルギウス超新星爆発を楽しみに待つことができるのである。とてつもない天体ショーなのだ。

本書はこの話題を中心に宇宙と太陽系の歴史、ダークマターダークエネルギーなどの宇宙研究の最先端、それを観測するための望遠鏡の現在など、この分野の初心者にとって最適の一冊だ。著者は国立天文台准教授・普及室長。ちなみに国立天文台は野辺山やハワイなど10数箇所に観測所をもち、本部は東京都三鷹市にある。

どうでもいいことだが、三鷹市のひとつおいて西隣は国立市だ。こちらは「こくりつ市」ではなく「くにたち市」と呼ぶ。そのため国立市の図書館は「くにたち中央図書館」と一部ひらがな表記だ。ややこしい。国立天文台Facebookで「いいね!」をしておく価値はありそうですよ!

『太陽に何が起きているか』

太陽に何が起きているか (文春新書)

太陽に何が起きているか (文春新書)

著者常田佐久氏の経歴は東大天文学科卒、東大天文学専門過程博士課程修了、東大東京天文台助手、東大天文学教育研究センター助手、東大天文学助教授を経て、国立天文台教授だ。まさに天文学一筋の人だ。毎日天空を見て暮らしている人なのだ。しかし、のんきに望遠鏡を覗いているだけだと思ったら大間違いである。

望遠鏡は「大坂夏の陣」の7年前にあたる1608年にオランダの眼鏡師によって発明された、それを知ったガリレオ・ガリレイは即座に改良にとりかかり、なんと3ヶ月間で100台の望遠鏡を作ったといわれる。もちろんレンズはすべて手研摩である。そして、はやくも1613年には本書のテーマである『太陽黒点論』を刊行しているのだ。古来から天文学者は自身で観測装置を作り、天体を観測する人なのである。

著書にとってガリレオの望遠鏡にあたるものは太陽観測衛星である。1991年に打ち上げられたSO「ようこう」、2006年に打ち上げられた「ひので」がそれだ。本書はその太陽観測衛星が発見した太陽のいまの姿について判りやすく、詳細に解説した絶好の読み物である。太陽には魅力的な秘密がいっぱい詰まっていることがよく判る。

じつはいま太陽で異変が進行中だ。100数十年ぶりに黒点数が少なく、11年周期だった太陽活動が長くなりはじめている。それだけではない。過去45年の観測史上、地球へ到来する宇宙線の量が最大になりつつあるのだ。観測の結果、これまで地球と同じように南極と北極にS-Nという2つの磁極があったのだが、これがS-Nそれぞれ2つづつという4極構造になり始めている。

太陽活動が低下する期間を極小期と呼ぶ。1700年前後のマウンダー極小期1800年前後のダルトン極小期が有名だ。この時期に地球は寒冷化するといわれている。しかし、いまだにそのメカニズムが解明されていないし、地球温暖化ガスによる気候変化などを考慮すると予測は不能だ。多数の非線形現象の相互作用を予測することは不可能といっても良いだろう。想像を絶する変化がある日突然やってくるかもしれないのだ。

ともあれ、本書は警告の書などではない。しっかりと人類が理解している太陽のメカニズムや姿を説明してくれる。太陽の構造とメカニズム、観測衛星に搭載された特殊な望遠鏡群とその観測対象となる現象、国際研究協力体制や衛星開発現場の面白さ。サイエンスマニアにとってはコロナ加熱の謎、磁気リコネクション、アルベーン波などの専門用語も満載で楽しめる。もちろん、そのあたりを端折って読んでも充分にモトを取るであろう。

ところで、地動説を唱えたガリレオは1633年に宗教裁判で有罪となり、1642年に亡くなるまで幽閉された。ローマ教皇庁が正式にガリレオ裁判が不当だったと認めたのは350年後の1992年のこと。認めたのはヨハネ・パウロ2世だった。後任者のベネディクト16世は先日、600年ぶり歴代2人目となる生前退位を決めた希なる教皇になった。このベネディクト16世は2008年にヨハネ・パウロ2世の決定を覆し、ガリレオ裁判は正当だったと講演する予定だったという。さもありなん。

祝坂東玉三郎仏文化勲章受章決定!

坂東玉三郎文化勲章受章決定!というわけで早速wikipediaにあたってみたわけだ。玉三郎丈が受賞したコマンドゥールというのは最高章ということなのだが、それ以下の章の受賞者がなんとも面白い。いろんな人がいるのだが、なんと滝川クリステルも2012年にシュヴァリエ章を受賞しているのだ。お二方やフランスを揶揄するつもりはないので、面倒くさいから突っ込まないでねw

ちなみに日本の文化勲章は1937年制定。フランスの文化勲章は1957年制定だ。意外にもフランスの方が後発である。ところで、ノーベル賞の初授与は1901年だ。あらゆる章の価値というのは、過去の受賞者がいかに優れた人物だったかに尽きると思う。ノーベル賞キュリー夫人アインシュタインと肩を並べることができるがゆえに貴いのである。とはいえノーベル平和賞だけは別次元。佐藤栄作だの金大中だのオバマだのわけわかりません。

ブレイナードとキャンベル

ブレイナード米財務次官が日本寄りの発言を続けている。昨日は為替についての発言は各国とも慎むようにと、日本に釘を刺したように報道されているが、為替誘導問題の議論はこれにて終了という合図でもあるはずだ。

ブレイナード国際問題担当財務次官はアラフィフの美女。じつは今月退任したカート・キャンベル東アジア・太平洋担当国務次官補の奥さんだ。カート・キャンベルといえば、昨年9月に尖閣諸島について議会上院で「明らかに日米安保条約の適用範囲内だ」と証言した人物。

日本はこの御夫婦に足を向けて寝れない状態が続く。外務省のロビー活動が功を奏しているのかもしれない。